幕府の大坂臨時集銀、大名衆の蔵物(くらもの)(おもに蔵米(くらまい))入札販売代銀の出納を引き受け大名貸をする両替商。銀懸屋(ぎんかけや)ともいう。蔵元を兼ねるものも多い。17世紀後半、諸藩の蔵物が大坂に大量に積み登せられると、従来、藩役人や町人の蔵元が行っていた代銀出納業務が分離し、蔵米引当・前銀の大名貸融通・返済のためにも、掛屋が設定された。延宝(えんぽう)~元禄(げんろく)期(1673~1704)には40から50余りの掛屋が大坂に集中し、約30藩が専任の掛屋を置いている。蔵屋敷・蔵元が保管する蔵米は、指定の掛屋立会いのもとで、米仲買に入札販売される。掛屋は落札した米仲買から、翌日掛けの敷銀(しきぎん)、3~10日限り掛けの代銀をよく吟味して受け取り、銀切手(請取(うけとり))を交付する。仲買はこれを蔵屋敷に持参、印鑑を照合して米切手を受け取ると、蔵出しを請求することができる。敷銀・代銀の受け取り状況は、掛屋から蔵役人に報告され、代銀が完納されると、掛屋は掛け包み銀を保管したり、江戸屋敷への為替(かわせ)取組、国元仕送り、大名貸の銀主への送銀を行ったり、蔵屋敷に納付したりする。掛屋は、その手数料として入目(いりめ)や口銭(こうせん)、掛屋料を支給され、また諸藩から扶持(ふち)米を受けたりする。幕府の掛屋には、摂河泉国役(くにやく)銀、大坂臨時御用銀掛屋などがある。久留米(くるめ)・松江藩などの御用を勤めた天王寺(てんのうじ)屋五兵衛、金沢・広島・岡山藩など数多の掛屋を兼ねた鴻池(こうのいけ)善右衛門、中津藩御用の加島(かじま)屋久右衛門などは著名。
[川上 雅]
『森泰博著『大名金融史論』(1970・大原新生社)』
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江戸時代,大坂で諸藩の蔵屋敷に属して公金出納を担当した町人。17世紀後半以降,西日本や北陸の諸藩は大坂に蔵屋敷を設けて,ここへ蔵米を大量に回漕し,米仲買の入札で売りさばいた。落札した米仲買が納める敷銀,米代銀を受け取り,銀切手を渡すのが掛屋で,銀掛屋ともいわれた。掛屋は受け取った米代銀を蔵屋敷の指示で両替し,江戸や国元へ送金した。もっとも,諸藩は蔵米の回着と売払いの時期,銀高にかかわりなく江戸で恒常的な貨幣支出を必要としたから,掛屋に定期的に江戸へ送金させておき,蔵米売代銀で返済した。不足のときは掛屋の貸付けとなり,大名貸は直接には掛屋の貸付けから拡大していった。江戸への送金は江戸仕送りと称し,たいてい為替で行われた。このような掛屋の業務からして,掛屋は多くが両替屋であった。《難波雀》(1679)によれば,十人両替の天王寺屋五兵衛は7藩の,鴻池喜右衛門は2藩の掛屋を兼ねていた。
執筆者:森 泰博
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江戸時代,大坂などで諸藩の蔵屋敷に出入りして公金の出納,江戸屋敷や国元への送金,金銀の融通や両替などを担当した商人。諸藩ではこれに扶持米を給付し,用人・留守居役格の士分として扱った例が多い。掛屋は蔵物(くらもの)の売却を行う蔵元を兼ねた両替商が多く,藩財政と密接にかかわり,諸藩にとっては安定した資金調達先として必要な存在であった。大坂の鴻池(こうのいけ)善右衛門は代表的な掛屋で,数藩の掛屋や用達を兼ね,扶持米だけで1万石にのぼった。
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…江戸初期,各藩は農民から取り立てた米を当時の商業の中心地大坂に運び込んで蔵屋敷と呼ばれる領内物品の貯蔵,販売のための出張所に蓄え,これを商人に売って藩の費用に充てていた。蔵屋敷の管理者である蔵元は各藩の武士がつとめていたが,しだいにその役を商人に任せるようになり,掛屋(町人蔵元)が生まれた。その最大のものが淀屋である。…
… 藩は江戸で恒常的な貨幣支出を必要としたから,大坂で定期的に借り入れて,大部分は江戸へ送金し,蔵物が売れてから返済した。諸藩の大坂蔵屋敷でこの資金の出納を行うのが掛屋であった。大名貸は掛屋によって主として〈江戸仕送り〉という形でなされた。…
※「掛屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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