日本大百科全書(ニッポニカ) 「窓」の意味・わかりやすい解説
窓
まど
window
建築物において壁または屋根に設けられる開口部のうち、そこから人間の出入りしないものをいう。建築物に窓をつくる目的は採光および換気を主とするが、眺望、監視のために設けることもあり、ときに緊急時の避難口としても活用される。建物の使用目的によっては(たとえば恒温恒湿状態を必要とする工場建築など)、いわゆる無窓建築をつくることもあるが、一般の居室においては直接外気に面する開口部を室面積に応じてかならず設けなければならないことを建築基準法に規定(同法28条、同法施行令19条・20条および109条)しており、もしその条件を欠くときはこれにかわる設備を完備しなければならない。
窓は屋内から見て目の高さに開くのが普通であるが、機能によっては特異なところにも設けられる。床に接してつくるものを掃出(はきだ)し窓、内法高(うちのりだか)(出入口鴨居(かもい)の高さ)より上に設けるものを欄間(らんま)、屋根に設けるものが天窓である。また躯体(くたい)(建物の主体構造部)外壁の面から張り出してつくるものを出窓という。屋内の天井または屋根裏が著しく高い場合は越(こし)屋根を設け、その側面を窓とすることがあり、高窓またはクリアストリーclearstoryとよばれ、工場建築やゴシック式教会堂建築に応用されている。
[山田幸一]
開閉の機構
窓の形状は、その目的、開閉の機構、材料、建物の構造などにより多種多様で、それに意匠上の要請まで加わればその種類はまさに千差万別である。まず開閉の機構に従って分類すれば次のとおりである。
(1)嵌殺(はめころ)し。開閉のできない窓で、建物躯体に固定された枠にガラスなどを建て込み、もっぱら採光、眺望などの用に供されるもの。外部に対する開口をすべて嵌殺しとすれば自然換気はまったく不可能となるので、その場合は完全な空気調整設備を必要とする。
(2)引違い。和風建築にもっとも普通にみられるもので、複数の建具を敷居、鴨居につけられた溝またはレールに沿って水平に移動させ開閉する機構。建具をレール上の任意の位置に止められるので採光や換気の量を調整しやすい。この特徴をル・コルビュジエが注目してヨーロッパで用いて以来、日本の洋風建築にも逆輸入された。建具の数は2枚または4枚の場合が多く、この場合は2本のレールで開口幅の2分の1まで開放することができる。3枚引きの場合はレールを3本とし建具を1か所に重ねることにより最大3分の2まで開放しうる。開口幅が広くなるときは6枚引きとすることもある。建具は水平に移動させるので、その形があまり縦長になると取扱いが困難となり、縦横の比は2対1が限度とされる。
(3)引込み。建具を水平に移動し壁の裏に引き込むもの。窓の片側に引き込むものを片引き、両側に分けて引き込むものを両引きまたは引分けといい、いずれの場合もレールは1本である。引違いに比し窓幅いっぱいを開放できるのが特徴である。
(4)上げ下げ。2枚の建具を窓枠両側の溝に沿って上下に移動させるもの。いわば縦形の引違いである。建具を個々に動かせるようにしたものと、1枚を動かせば他の1枚も連動するものとがあり、前者は分銅を用いて建具と、後者は2枚の建具の重量を等しくすることによって均衡を保ち、いずれも任意の位置で建具を静止できるようくふうされている。機構からいって縦長の窓に適し、そのような形の窓の多かったヨーロッパでの歴史は古いが、日本では明治開国に伴う洋風建築技術の導入とともに流行した。引違いと異なり開口の上下を開放することになるので換気の効率はよいが、なにぶんにも機構が複雑で故障をおこしやすい難があり、現在ではあまり採用されない。
(5)両開き。2枚の建具を窓枠の両側に取り付けた垂直軸を中心に回転させ開閉するもの。外側に開くものを外開き、内側へのものを内開きという。主として洋風建築に好まれるが、日本でも外開きを観音開きと称し土蔵の窓などに用いられてきた。建具の形は縦長が適していることはいうまでもない。
(6)片開き。両開きの建具を1枚にしたもの。
(7)突出し。片開きの軸を水平に取り付けた形。外壁の窓に用いる場合は、雨仕舞(あまじまい)の関係から窓の上枠に軸を取り付け、建具の下側を外方へ突き出して開くのが普通であるが、間仕切り壁の欄間などでは光線や音響の反射を考慮して上側を突き出す場合もある。突出しを天窓に用いた場合は突上げという。日本では草庵(そうあん)茶室の屋根に用いられていた。
(8)辷出(すべりだ)し。突出しに似るが、建具を開くにしたがって回転軸が上下に移動する機構になったもの。突出しに比して建具を開く角度が大きく、壁面に対しほとんど直角にすることができる。
(9)回転。建具を垂直または水平に回転させるもの。いずれも回転軸は建具の重心を通るように取り付け、90度まで開けられる。突出しなどに比し建具の外面を掃除するのに便利である。
以上が現行の建築で普通に採用される開閉機構であるが、このほか防火シャッター用の巻上げ方式や目隠し用のアコーディオン方式なども必要に応じて使用される。さらに特殊なものとして無双(むそう)窓がある。これは関西の古い町家(まちや)にみられる「むしこ窓」の開閉に使用されるもので、一定間隔を置いて並んだむしこ格子の寸法にあわせて格子状のすきまをもつ板の建具をつくり、格子1本の幅だけ建具を水平に移動させればむしこ窓全体の開閉ができるようにくふうされたものである。
[山田幸一]
材料
木造真壁(しんかべ)造の窓は、建具を敷居、鴨居と両側の柱の間に建て込むのが普通であるが、その他の構造では別に窓枠をつくり建具をはめる。このような枠と建具とを一体にしたものをサッシといい、その構成材の種類によって木製サッシ、鋼製サッシ、アルミサッシなどとよぶ。一般に木製より金属製のほうが防水性や気密性に優れるが、鋼製ではとくに防錆(ぼうせい)に注意しなければならない。窓ガラスは透明板ガラスのほか、見通しを遮る場合には磨(すり)ガラス、曇りガラスなどを、防犯・防火上必要とするときは強化ガラス、網入りガラスなどを、それぞれ使い分ける。ステンドグラスは嵌殺し窓に限り、移動する建具に使用することは困難である。そのほか色ガラス、波板ガラス、模様をつけた型板ガラスが遮光または装飾用に、熱線吸収または透過ガラスが医療施設用などに、それぞれの目的に応じて使用される。またガラスにかえてプラスチック板の用いられることもある。障子紙には白色和紙を使用するが、雨のかかりやすいところでは油引きの紙、ごくまれには布を使用することもある。
[山田幸一]
日本建築における窓
日本の伝統様式である木造建築は架構式構造で、壁は非耐力壁である。この種の構造では窓をいかに大きくとっても構造を阻害せず、極端な場合、柱と柱の間をすべて吹放しとすることすら可能で、「家の作りやうは、夏をむねとすべし」(徒然草(つれづれぐさ))という主張にもっとも適合する通風のよい家屋をつくることができ、結果として屋外の庭園や自然の景観と融合した建築空間をつくった。窓はその媒介となるものであるから、いきおいその形状意匠も豊富になる。これに対し組積式構造を主流とする洋風建築では壁は耐力壁となり、そこへ開口をとることはそれだけ構造を弱めることになり、窓は小さくならざるをえない。「建築工事の歴史は、強度を落とさずに壁体に大きな窓をつくるための絶えざる努力の歴史であった」(ジャン・ジャンベル『カテドラルを建てた人びと』)という西欧建築家の嘆きはこのことを雄弁に物語っている。このような建築では、壁は目だっても窓の意匠はおのずから単調となり、とくに組積式においては構造上、幅の狭い縦長の窓はとれても横長のものは困難で、しいてこれをつくろうとすれば窓上辺にアーチを組まなければならず、このアーチの扱いがわずかに窓の形状に変化を添えるだけである。このような比較からいっても、日本建築における窓の効用は大きいといえる。
日本の窓の開閉機構には引違いや引込みがもっとも多いが、寝殿造で用いられる蔀(しとみ)は一種の突出し型、土蔵の窓を有事の際に閉じる土戸は両開きまたは片開き型で、窓ではないが社寺の出入口や一般邸宅の門でも両開き型は珍しくない。
窓の形は方形が基準であることはいうまでもないが、特異なものとしてまず火灯(花頭(かとう))窓がある。これは鎌倉時代以降、禅宗様寺院を中心に用いられたもので、上辺を宝珠もしくは火炎を思わせる曲線にしている。下地(したじ)窓は土壁の一部を塗り残し、壁下地の小舞(こまい)を格子に見立てた窓で、形は方形のほか円形にする場合もある。この型で格子を除いた大きい円窓はとくに吉野窓とよばれる。連子(れんじ)窓は竪(たて)格子を細かく入れた窓で、神社建築などにみられ、格子を横に通したものが武者窓である。また、むしこ窓は塗込めの竪格子を一定間隔に並べたもので、町家2階の外壁の窓に用いられ、関西地方では古い町並みを飾る一つの風物詩となっている。
窓とくに日本建築の窓では、建具を二重、三重に建て込むことも多い。内側から数えて紙障子、ガラス障子、雨戸を重ね、なおこのほかに虫よけの網戸の加わることもある。
[山田幸一]