改訂新版 世界大百科事典 「摩擦伝動」の意味・わかりやすい解説
摩擦伝動 (まさつでんどう)
friction drive
例えば二つの円筒形の車の表面を押しつけて接触させ,一方の車の軸を原動機に接続して回転させると,両方の車の接触点において作用する摩擦力によって他方の車が回転し,この軸を従動機に接続すれば原動側から従動側に回転運動を伝達することができる。このように表面に作用する摩擦力により動力を伝達する方法を摩擦伝動といい,それに用いられる車を摩擦車という。摩擦車の形状としては円筒のほか,円錐および球形が使用され,また,円板どうしの接触によって動力の断続を行う摩擦クラッチも摩擦伝動の一種とみなせる。
いずれにしても摩擦伝動においては,摩擦力を発生させるために接触面に垂直な押しつけ力を作用させなければならない。押しつけ力をN,接触面に働く摩擦力をF,接触表面の摩擦係数をμとすると,F=μNの関係があり,係数μが一般に小さい値であるのでNを大きくしてもFはあまり大きい値にはならない。このため,歯車のように大きい力を伝達することはできないが,構造が簡単であり,円錐形の摩擦車を用いれば接触位置を移動させるだけで無段変速装置に利用できるなどの長所がある。摩擦車の表面にゴムまたは皮革などを張り,表面を乾燥させ,摩擦係数を0.20~0.75のような大きい値にして伝達力を増大する方式は古くから使用されていたが,この乾燥方式は接触表面の損傷が激しく寿命が短い欠点がある。このため,現在では摩擦車の表面を硬い鋼鉄でつくり,摩擦車の表面に潤滑油を流しながら伝動する流体摩擦方式が盛んに使用されるようになっている。流体摩擦方式では,両接触表面の間に油の薄膜が存在し,潤滑油の粘性に基づく流体摩擦力により力の伝達が行われ,従動側摩擦車が原動側摩擦車に引きずられて運動する。この点に注目して流体摩擦方式をとくにトラクションドライブtraction driveと呼んで区別することがある。流体摩擦方式では摩擦係数が0.05以下というような小さい値になり,伝達力が減少する欠点はあるが,摩擦車の寿命が著しく増大する。とくに,摩擦車間の接点の位置を移動させて無段変速装置とする場合は流体摩擦方式を採用するほかはない。
執筆者:北郷 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報