放射線量(読み)ホウシャセンリョウ(英語表記)radiation dose

デジタル大辞泉 「放射線量」の意味・読み・例文・類語

ほうしゃせん‐りょう〔ハウシヤセンリヤウ〕【放射線量】

物体に照射された放射線の量。→線量

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改訂新版 世界大百科事典 「放射線量」の意味・わかりやすい解説

放射線量 (ほうしゃせんりょう)
radiation dose

放射線量とは放射線のエネルギー吸収に関係した量をいい,通常は放射線の吸収エネルギー物質質量で除した量,すなわち吸収線量をいう。広義には照射線量や線量当量を含む。

放射線は電荷をもつ荷電放射線(運動エネルギーを有する電子や陽子など)と電荷をもたない非荷電放射線(X線やγ線など)に大別される。荷電放射線は,ある物質中を進むとき,その道筋に沿って分子原子励起あるいは電離する。非荷電放射線は,直接,分子や原子を励起あるいは電離することはできないが,物質との相互作用により運動エネルギーを有する荷電放射線を発生する。したがって,放射線は物質にエネルギーを与えて,分子や原子を励起あるいは電離する。その結果が放射線による物理化学あるいは生物学的影響などとして観察される。このように,放射線の影響は物質に吸収されたエネルギーに関係することから,1953年ころ放射線量として吸収線量が定義された。

 吸収線量Dは,ある物質中の微小体積に付与された放射線のエネルギーdeを,その体積のもつ質量dmで除した商である。すなわち,Dde/dmで与えられる。吸収線量の単位は,従来,rad(ラド,radiation absorbed doseの頭文字をとる)で,

 1rad=100erg/g=10⁻2J/kg

であったが,新しい国際単位では,radに代わってGy(グレイ,Grayの略)が用いられる。

 1J/kg=1Gy=100rad

 吸収線量はすべての放射線に適用できるが,物質の単位質量に吸収されたエネルギーで定義されており,通常,その物質名を明記しなければならない。例えば,人体の組織の吸収線量を〈組織線量〉などという。

一般に,線量といえば吸収線量のことであるが,照射線量(exposure)Xや線量当量(dose equivalent)Hを,単に線量doseということがある。照射線量は,X線とγ線だけに用いられる。空気0.001293g(標準状態の空気1cm3の質量)中にX線,γ線によって生じた二次電子か正のイオンがつくる電離量が1静電単位のとき,照射線量は1R(レントゲン)であるとした。しかし,現在は,XdQ/dmで定義されている。dQは質量dmの空気中でX線,γ線によって自由になったすべての二次電子か陽イオンが完全に空気中で止められたとき生ずる一方の符号の電荷の和の絶対値である。照射線量の単位は暫定的にRが用いられる。

 1R=2.58×10⁻4C(クーロン)/kg

であるが,新しいSI単位にはRはない。

 γ線と中性子の生物学的影響をみたとき,一般に吸収線量が同じでも中性子の方がγ線よりも影響が大きい。これは両者のエネルギーの与え方のちがい,すなわち線エネルギー付与(LET(エルイーテイー)。荷電放射線がある物質中を進むとき,単位長さ当りに与えたエネルギーkeV/μm)に関係する。LETに関係する線質係数Qで吸収線量Dを加重した線量当量Hが放射線防護の目的に用いられる。

 HDQN

ここで,Nは線量率(単位時間当りの吸収線量)などに関係した修正係数であるが,現在は1としている。線量当量の単位は,吸収線量と区別するためrem(レム)が用いられてきた。新しいSI単位ではSv(シーベルトSievert)が用いられる。100rem=1Svである。線質係数Qには,X線,γ線,β線,電子線で1,エネルギー不明の中性子で10,陽子,重陽子線で10,α線や重荷電粒子では20が用いられる。

 単位時間あたりの吸収線量,照射線量および線量当量を,それぞれ,吸収線量率,照射線量率および線量当量率といい,rad・min⁻1,R・min⁻1あるいはrem・h⁻1などで表す。

 なお,X線,γ線や中性子など非荷電放射線が,物質との相互作用で二次荷電粒子を発生したとき,その荷電粒子が得た最初の運動エネルギーの和をその物質の質量で除した商をカーマといい,radやGy単位で表す。
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百科事典マイペディア 「放射線量」の意味・わかりやすい解説

放射線量【ほうしゃせんりょう】

放射線量とは放射線のエネルギー吸収に関係した量をいうが,広義には照射線量や線量当量を含む。通常は放射線の吸収エネルギーを物質の質量で除した量,すなわち吸収線量をいう。放射線は電荷をもつ荷電放射線(運動エネルギーを有する電子や陽子など)と電荷をもたない非荷電放射線(X線やγ線など)に大別される。荷電放射線は,ある物質中を進むとき,その道筋に沿って分子や原子を励起あるいは電離する。非荷電放射線は,直接,分子や原子を励起あるいは電離することはできないが,物質との相互作用により運動エネルギーを有する荷電放射線を発生する。したがって,放射線は物質にエネルギーを与えて,分子や原子を励起あるいは電離する。その結果が放射線による物理,化学あるいは生物学的影響などとして観察される。このように,放射線の影響は物質に吸収されたエネルギーに関係することから,1953年ころ放射線量として吸収線量が定義された。吸収線量Dは,ある物質中の微小体積に付与された放射線のエネルギーdeを,その体積のもつ質量dmで除した商である。すなわち,D=de/dmで与えられる。吸収線量の単位は,従来,rad(ラド,radiation absorbed doseの頭文字をとる)で, 1rad=100erg/g=10−2J/kgであったが,新しい国際単位では,radに代わってGy(グレイ,Grayの略)が用いられる。 1J/kg=1Gy=100rad吸収線量はすべての放射線に適用できるが,物質の単位質量に吸収されたエネルギーで定義されており,通常,その物質名を明記しなければならない。例えば,人体の組織の吸収線量を〈組織線量〉などという。一般に,線量といえば上記の吸収線量のことであるが,照射線量Xや線量当量Hを,単に放射線量ということもある。照射線量は,X線とγ線だけに用いられる。空気0.001293g(標準状態の空気1cm3の質量)中にX線,γ線によって生じた二次電子か正のイオンがつくる電離量が1静電単位のとき,照射線量は1R(レントゲン)であるとした。しかし,現在は,X=dQ/dmで定義されている。dQは質量dmの空気中でX線,γ線によって自由になったすべての二次電子か陽イオンが完全に空気中で止められたとき生ずる一方の符号の電荷の和の絶対値である。照射線量の単位は暫定的にRが用いられる。 1R=2.58×10−4C(クーロン)/kgであるが,新しいSI単位にはRはない。γ線と中性子の生物学的影響をみたとき,一般に吸収線量が同じでも中性子の方がγ線よりも影響が大きい。これは両者のエネルギーの与え方のちがい,すなわち線エネルギー付与(LET(エルイーテイー)。荷電放射線がある物質中を進むとき,単位長さ当りに与えたエネルギーkeV/μm)に関係する。LETに関係する線質係数Qで吸収線量Dを加重した放射線量当量Hが放射線防護の目的に用いられる。 H=DQNここで,Nは線量率(単位時間当りの吸収線量)などに関係した修正係数であるが,現在は1としている。線量当量の単位は,吸収線量と区別するためレムremが用いられてきた。新しいSI単位ではシーベルトが用いられる。原発事故などの大規模な原子力災害の際に,放射性物質の人体などへの影響を示す放射線量については,シーベルトが使われる。100rem=1Svである。線質係数Qには,X線,γ線,β線,電子線で1,エネルギー不明の中性子で10,陽子,重陽子線で10,α線や重荷電粒子では20が用いられる。一定期間(たとえば一年間)の放射線積算量を累積放射線量という。単位時間あたりの吸収線量,照射線量および線量当量を,それぞれ,吸収線量率,照射線量率および線量当量率といい,rad・min−1,R・min−1あるいはrem・h−1などで表す。なお,X線,γ線や中性子など非荷電放射線が,物質との相互作用で二次荷電粒子を発生したとき,その荷電粒子が得た最初の運動エネルギーの和をその物質の質量で除した商をカーマといい,radやGy単位で表す。
→関連項目福島第一原発放射線放射線障害

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