ミヘルス
みへるす
Robert Michels
(1876―1936)
ドイツ出身のイタリアの社会学者。ケルンの大実業家の息子に生まれ、ミュンヘン、ライプツィヒ、ハレの諸大学に学ぶ。1902年にドイツ社会民主党に入り、フランスのサンジカリズム運動やイタリアの社会党に参加、のちに政治活動から手を引いて研究に専念し、トリノ大学の経済学講師となる(1907)。『現代民主主義における政党の社会学』(1911)を著し、いっさいの組織は、たとえ徹底的民主化を目ざす革命的組織であれ、組織の拡大につれて必然的に官僚化し、少数者支配にならざるをえない、という「寡頭制の鉄則」論を展開した。M・ウェーバーとともに官僚制研究と政治社会学の創始者とみなされる。のちイタリアに帰化し、ペルージア大学およびローマ大学教授(1928)となる。社会学は特殊社会諸科学の限界を突破する「侵入科学」でなければならないと主張し、ナショナリズム、愛国心、性道徳、知識人の役割、社会移動、社会科学史、イタリアにおける社会主義およびファシズムの発展に関する思想史的研究、エリート論などさまざまな関係領域にわたる多様な先駆的業績をあげた。
[森 博]
『森博・樋口晟子訳『現代民主主義における政党の社会学』全2巻(1973、1974・木鐸社)』
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ミヘルス
Robert Michels
生没年:1876-1936
ドイツの政治社会学者。マールブルク大学私講師を経てバーゼル大学,ペルージア大学教授を歴任。サンディカリスム的社会主義者としてドイツ社会民主党に加入したが,1907年同党を脱退し同年イタリアへ移住,その後ムッソリーニのファシズムに接近した。彼の主著《現代民主主義における政党社会学》(1911)は政治社会学の古典とされている。同書において彼は社会主義政党には,その民主主義的理念にもかかわらず,あるいはそれゆえにこそ少数の指導者の優位,官僚制の台頭などの非民主的な〈寡頭制の鉄則ehernes Gesetz der Oligarchie〉が見いだされること,そしてこの傾向があらゆる組織集団にとって不可避であることを論じた。彼はのちにエリート理論への傾斜をいっそう強めていったが,官僚制などの組織的問題に注目した彼の視点は,もっぱら経済的問題の解決のみを重視した当時のマルクス主義に対する批判を意味していたといえよう。
執筆者:亀嶋 庸一
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ミヘルス
ドイツの政治学者,社会学者。スイスのバーゼル大学,イタリアのトリノ大学教授を歴任。ドイツ社会民主党,イタリア社会民主党の実態を研究し,少数支配の鉄則を唱えた。主著《現代民主政における政党社会学》《愛国主義》。
→関連項目政治学
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ミヘルス
Michels, Robert
[生]1876.1.9. ケルン
[没]1936.5.3. ローマ
ドイツ生れの社会学者。のちイタリアに帰化。チューリンゲン大学,バーゼル大学 (1914~28) ,イタリアのペルージア大学 (28~36) の教授を歴任。当初は社会主義に近かったが,晩年はイタリア・ファシズムに共鳴した。主著『政党社会学』 Zur Soziologie des Parteiwesens in der modernen Demokratie (1911) において「寡頭支配の鉄則」を主張した。
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世界大百科事典(旧版)内のミヘルスの言及
【寡頭制】より
…歴史的には,ルネサンス期のフィレンツェにおけるメディチ家の支配が名高いが,現実政治において,単一の支配者以外のすべての人々が政治権力から排除されることや,逆に,政治社会の構成員すべてが,政治決定に実質的に関与することはありえないとするならば,人類史上ほとんどすべての政治体制は寡頭制であるということもできよう。また,ドイツの社会学者ミヘルスRobert Michels(1876‐1936)は,国家に限らず,会社,政党など,あらゆる組織において,権力が少数者の手に集中していく傾向を描き出し,これを〈少数支配の鉄則〉と呼んでいる。[政体]【吉岡 知哉】。…
【エリート】より
…モスカは,少数者は少数者であるがゆえに有効に組織されうるが,逆に多数者は多数者であるがゆえに組織されることが困難であり,その結果,少数者の支配を受けざるをえないとして,少数エリートによる多数者の支配を説いた(《支配階級》1896,英訳版1939)。また,ドイツの政治社会学者[R.ミヘルス]もモスカの影響下に,寡頭制の鉄則を説明する。ミヘルスはドイツの社会民主党を分析し,いかなる組織も少数の幹部に権力を集中することなしに,その規模を拡大することはできないとし,規模が拡大すれば必ず寡頭制的支配者を生みだすと主張した(《現代民主主義における政党社会学》1911)。…
【寡頭制】より
…歴史的には,ルネサンス期のフィレンツェにおけるメディチ家の支配が名高いが,現実政治において,単一の支配者以外のすべての人々が政治権力から排除されることや,逆に,政治社会の構成員すべてが,政治決定に実質的に関与することはありえないとするならば,人類史上ほとんどすべての政治体制は寡頭制であるということもできよう。また,ドイツの社会学者ミヘルスRobert Michels(1876‐1936)は,国家に限らず,会社,政党など,あらゆる組織において,権力が少数者の手に集中していく傾向を描き出し,これを〈少数支配の鉄則〉と呼んでいる。[政体]【吉岡 知哉】。…
【政治学】より
…このようにして政治学の対象と方法は一挙に拡大し,政治学は狭義の政治現象だけではなく,多くの分野へと分化しながらもあらゆる人間事象を考察の対象に入れざるをえない総合科学への道をたどりはじめたのである。 19世紀末から20世紀前半へかけてのこのような政治学の転換は,各国民主政治の慣行を比較研究したJ.ブライス,大衆の政治行動の非合理性を把握することを説いたG.ウォーラス,政治を過程としてみることをはじめたA.F.ベントリー,政治においてつねに変わらぬ支配エリートを研究したG.モスカ,大衆組織における寡頭支配の鉄則を指摘したR.ミヘルス,世論がステレオ・タイプによって支配されていることを分析したW.リップマンなどの業績に典型的に示されている。これらの政治研究者たちに共通に分けもたれていたのは,政治学を経験的・実証的な学問として自立させたいという強い志向だった。…
※「ミヘルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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