花粉が風によって媒介されて移動し,受粉する花。受粉の様式としては原始的なものと考えられている。風媒花はふつう花被が発達せず,においも弱く,花粉は団塊をつくらず,他物に付着しやすい粘液や突起をもたず,小さくて空気中を浮遊しやすい。イネ科,カヤツリグサ科,ブナ科,キク科などに多く,裸子植物のほとんどすべては風媒花である。
風媒花の花粉がどの程度の範囲まで移動するかは確かではないが,大量に生産される花粉は,ジェット気流に乗ったりしてかなり広範囲に移動するようである。しかし,実際に受粉に関与するのは地球上をぐるぐる回っているような花粉ではなくて,すぐ近くの雌花に到着したものと思われる。いずれにしても,風まかせにするのだから,大量の花粉が生産され,それが空気中を浮遊することになる。春にスギの花粉によって,鼻やのどにアレルギー症状を起こす人が増えてきた(花粉症)が,この種のアレルギー性疾患はブタクサなどの花粉でも引き起こされるといわれている。
虫媒花の場合と違って風媒花の進化は,もっぱら花の過飾を廃し,その代り小さい花粉を大量に生産する方向に進んできた。そのため,ラン科にみられるような美しい花の多型化はみられないが,訪花昆虫の生活に左右されずに多様化して,より生活力の強いものが旺盛に分化してきた。受粉の型式としては風媒は原始的なものといわれるが,風媒花をもつ植物には進化の段階の進んだものが多く,現実に適応的に繁栄している種が多い。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
花粉が風の力で雌しべの柱頭に運ばれて受粉する花をいう。花は美しくなく、芳香や蜜(みつ)の分泌もない。花粉は粘性がないが多数つくられ、小形で軽く飛散しやすい。このため数百メートル以上離れた雌しべに受粉することができるといわれる。しかし乾燥気候の地方では、風媒花が花粉症の原因となる。キク科の花粉は外部に複雑な突起があり、イネ科の雌しべの柱頭は羽毛状になるなど、風媒花は受粉に適した構造をもっている。湿原地帯では過去の花粉が泥炭層中に年代順に存在するため、花粉分析によって過去の気象や植生を知ることができる。風媒花は虫媒花より原始的な形と考えられている。
[吉田精一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…水媒花は花粉が水によって媒介されるもので,水生植物にふつうにみられ,水中で受粉するものと,水上で受粉するものがある。風媒花は花粉が空気中を浮遊して媒介されるもので,一般に花被をもたないか,もっていても目だたないものが多い。大量の花粉を産出して空気中に放散するので,人の鼻孔などに入ってアレルギー性疾患である花粉病の原因になったりする。…
…エンドウやイチゴで知られているように,花が開く前にすでに受粉が終わっていることもあるが,普通は開花した後になんらかの方法で花粉が柱頭まで運ばれて受粉する。その方法には昆虫(虫媒花),鳥,コウモリなどの動物によるものと,風(風媒花)や水(水媒花)の無生物によるものに二大別される。前者では,昆虫などを誘うために美しい花が多く,においを出したり,蜜腺(スイカズラ),花盤(ミカン),腺体(ヤナギ)をもち,みつを分泌しているものも多い(図4)。…
…ブナ科,クルミ科など一群の双子葉植物は,獣の尾のような長い花序をもち,尾状花序群と呼ばれる。これらの植物群はいずれも木本で,主として風媒花であり,花は比較的単純な単性花で,花弁がないなどの共通した性質をもつので,無花弁類とも呼ばれる。被子植物の起源について,この無花弁類のような花弁のない単純な構造の花から花弁をもつ花が進化したとする立場をとれば,尾状花序群は最も原始的な植物群の一つであると考えられる。…
※「風媒花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新