児童・生徒ひとりひとりの教育上の問題について、その望ましいあり方を、本人または親などに助言すること。方法としては、一対一の相談活動に限定することなく、すべての教師が生徒に接するあらゆる機会をとらえ、あらゆる教育的活動の実践のなかに生かして、教育的配慮をすることが大切であるとされている(中学校学習指導要領解説)。具体的には、児童・生徒それぞれの発達に即して、好ましい人間関係を育て、生活によく適応させ、自己理解を深めさせ、人格の成長への援助を図るものである。したがって、特定の教員だけが行う性質のものではなく、また相談室だけで行われるものでもない。
[小澤美代子]
教育相談を学校のなかで行うには、まず組織づくりが大切である。組織には、(1)教育相談部として独立したもの、(2)生徒指導部や進路指導部、保健部などのなかに教育相談係として組み込まれるもの、(3)学年や部などから代表者が出て委員会として構成されるものなどがある。しかし組織ができただけでは動くことができない。全体計画、年間計画、それを受けた実施計画が必要である。その際、自校の実情を踏まえることが大切となる。
学校における教育相談活動のなかでは、事例に対する具体的な対処だけでなく、すべての教職員の資質向上のための研修も必要である。校内において教育相談担当教員を中心として行う研修には、(1)講演会、(2)事例研究会、(3)演習を取り入れた研修(グループ・エンカウンター、ソーシャル・スキル・トレーニング、ストレス・マネジメント教育等)がある。年度の終わりには、計画に基づき、教師による教育相談活動が適切に行われたかを評価することが必要で、それにより、さらに充実した実践が行われる。
[小澤美代子]
教育相談の分野は、(1)問題解決的・治療的教育相談、(2)予防的教育相談、(3)発達促進的・開発的教育相談に分けられる。
(1)は、いじめや不登校、非行など現実生活に適応できない状況を解決し、場合によってはカウンセリングなどの治療的対応を行うものである。この分野はおもにスクールカウンセラーや教育相談機関、医療機関が担うものである。(2)は、大きな不適応には至っていないが、遅刻・欠席や体調不良などがみられる、不安定な状況下の児童・生徒に行われる。担任や養護教諭を中心として、この段階で早期発見・早期対応をすることが望ましい。(3)は、不適応感もなく元気に学校に通っている多くの児童・生徒に対して、社会性、情緒的豊かさ、学習能力や思考力などの獲得のための心の成長を支え、さらに向上させていくものである。担任を中心に授業や特別活動のなかで児童・生徒の理解を進め、学級の良い雰囲気をつくり、心のエネルギーを充足することによって、健全な成長を促すことである。
教育相談の取り組みには連携が必要である。校内では教師が1人で問題を抱え込まない体制作り、校外では保護者をはじめ地域・関係機関との連携が重要である。児童相談所などの社会福祉機関、病院・保健所などの医療機関、警察・青少年センターなどの司法機関など多くの機関と学校との日ごろからの連携が、教育相談の充実のために欠かすことのできないものである。
[小澤美代子]
『文部科学省編『学校における教育相談の考え方・進め方――中学校・高等学校編』(1990・国立印刷局)』▽『大野精一著『学校教育相談――理論化の試み』(1997・ほんの森出版)』▽『大野精一著『学校教育相談――具体化の試み』(1997・ほんの森出版)』▽『日本学校教育相談会刊行図書編集委員会編著『学校教育相談学ハンドブック』(2006・ほんの森出版)』
教育にかかわって生じる諸問題について,カウンセラーやセラピスト,さらには教師などが相談を通じて助言・指導を行うことをいう。もっとも普通に行われるのは治療指導としての教育相談である。すなわち知能障害,情緒障害,反社会的行動,非社会的行動などを示す子どもについて,その原因を明らかにし,症状に応じて対応する。たとえば登校拒否児の場合,本人の心理的状態と親子関係,学校の学習指導のあり方や友人関係などに目を向け,本人に対して種々の心理療法を適用しつつ親に対するカウンセリングも行い,必要に応じて教師に指導助言をするなどである。教育相談としては,このようなもののほかに,とりたてて問題をもたない子どもも含めて,身体,知能,学力,パーソナリティなどの検査を実施し,そのデータを参考にしながら面接するなどして科学的な教育指導を行おうとすることも教育相談に含む。これはいわゆるガイダンスともいわれるものであるが,主たるねらいは学力の向上,進学をはじめとする進路の選択の適正化などである。
日本において最初に教育相談が組織的に行われたのは,心理学者久保良英による児童教養研究所(1917年東京に設立)でのものであるとされる。しかし教育相談が本格化するのは第2次大戦後であり,全国各地に公立・私立の教育研究所(教育相談室)が設置され,学校内での教師による教育相談とあわせて急速に普及発展してきている。子ども,青年の不適応が多彩に出現している今日,教育相談の発展への期待は大きいが,それにこたえるにはなおいくつかの問題を解決しなければならない。一つは教育相談の専門家養成である。セラピスト,カウンセラーについては,現在は大学等において心理学を修めた者がその任についているが,独自の養成課程はなく,資格の基準も明確でない。また教師の場合,上記のような問題をもつ子ども,青年についての専門的知識の習得の機会も不十分にしか保障されていない。二つには,種々の専門家の協力のための体制づくりである。ガイダンス的なものはともかく,知能や情緒の問題をかかえる者の治療指導は心理専門職と教師,医師,そしてときにはケースワーカーや地域の民生委員(児童委員),保護司などのキー・パーソンとの協力,共同が求められることがあるが,これら専門家のチーム・アプローチのための体制と条件はほとんど整えられていない。三つには教育相談のための施設・設備の充実である。多くの場合,保護者との面接室,子どもに対する遊戯療法を行う遊戯室(プレー・ルーム)などはあるが,多面的な問題に対応しうる検査設備,観察と記録のための施設・設備などは未整備であって,来談者の要求にこたえられないだけでなく,セラピストなどの技術の向上のための研究的資料の蓄積も困難となっている。
執筆者:茂木 俊彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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