改訂新版 世界大百科事典 の解説
新世界情報コミュニケーション秩序 (しんせかいじょうほうコミュニケーションちつじょ)
a new world information and communication order
発展途上国の主張する国際コミュニケーションの新しい枠組み。1970年代に登場した概念で,その当時までの国際的な情報流通には西側先進国と南側発展途上国との間に構造的な不均衡,不平等および一方的な依存従属関係があり(南北問題),これを独立国家間の主権の平等を原則として,より均衡のとれた公正で相互依存的な枠組みに改造する必要があるというもの。新国際情報秩序と称されることもある。
発展途上国でこのような形での国際コミュニケーションの現状再編がクローズアップされてきたのは,とくに非同盟諸国会議に参加している非同盟グループのリーダーシップによるもので,1973年の第4回非同盟諸国会議で初めて問題が提起されて以来発展途上国の強い関心事となり,折から並行して討議が続けられていたユネスコ総会における,いわゆるマス・メディア宣言案にその主張を織り込む努力が非同盟グループによって行われた。マス・メディア宣言は結局78年11月第20回ユネスコ総会で採択されたが,同宣言の前文第16節に〈新しい,より公正で効率的な新世界情報コミュニケーション秩序の実現を求めている発展途上国の念願に留意して〉という形で,このことばが初めて公式に登場した。マス・メディア宣言は,この新情報秩序の実現をめざした最初の国際的文書といえる。また新情報秩序は1974年の新国際経済秩序(NIEO(ニエオ))の概念と発想の基盤を共通にしているもので,両者は深く関連しあっている。西側先進国とくにアメリカとイギリスは,この新情報秩序の考え方に対し,情報の政府管理を正当化し情報の自由な流通を否定する危険があるとして強く反対したが,1980年にはユネスコはマス・メディア宣言をうけた形で途上国の情報インフラ開発支援を目的としたコミュニケーション開発国際機構(略称IPDC)を設置して具体的な活動に乗り出した。しかし,この情報問題を理由の一つとして,アメリカは1984年,イギリスは85年,相次ぎユネスコから脱退した。
執筆者:内川 芳美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報