日前国懸神宮(読み)ひのくまくにかかすじんぐう

精選版 日本国語大辞典 「日前国懸神宮」の意味・読み・例文・類語

ひのくまくにかかす‐じんぐう【日前国懸神宮】

  1. 和歌山市秋月にある神社。旧官幣大社。同境内日前神宮国懸神宮が並立し、それぞれ日前大神、国懸大神を主神としてまつる。名分上は別個だが、由緒・祭神は一体の関係にある。神武天皇が紀伊国造大道根命に命じて奉祀、崇神天皇五一年に名草浜の宮(和歌山市毛見)にまつられ、垂仁天皇一六年に現在地に遷座。天照大神(あまてらすおおみかみ)天岩戸にかくれた時に作られたとする日像(ひがた)鏡と日矛(ひほこ)をまつると伝えられる。古来その神性は伊勢神宮につぐとされる。紀伊国一の宮。にちぜんぐう。にちぜんこっけんぐう。ひのくまじんぐう。

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日本歴史地名大系 「日前国懸神宮」の解説

日前国懸神宮
ひのくまくにかかすじんぐう

[現在地名]和歌山市秋月

和歌山平野の北東部、秋月あきづきに鎮座する。旧官幣大社。法人名は日前神宮国懸神宮。緑に囲まれた広い境内を北に向かって進むと、向かって左に日前神宮、右に国懸神宮があり、いずれも南面する。祭神は日前神宮が日前大神を主神に相殿に思兼おもいかね命・石凝姥いしこりどめ命、国懸神宮は国懸大神を主神に相殿に玉祖たまのや命・明立天御影あかるたちあめのみかげ命・鈿女うずめ命を祀る。境内摂社として天道根あめのみちね神社・中言なかごと神社などがある。この日前・国懸両宮は一括して日前にちぜん宮と通称される。以下、本項も単に日前宮とする場合は両神宮をさす。

〈大和・紀伊寺院神社大事典〉

〔祭神〕

わが国でも最も古い歴史のある神社の一つで、早くから朝野の崇敬を集めた。日前神に関する最も早い文献は「日本書紀」神代上の一書で、天石窟に隠れた天照あまてらす大神を招き出すために大神をかたどった鏡を鋳ることを記したなかに、「即ち石凝姥を以て冶工として、天香山の金を採りて、日矛を作らしむ。又真名鹿の皮を全剥ぎて、天羽鞴に作る。此を用て造り奉る神は、是即ち紀伊国に所坐す日前神なり」とみえる。すなわち日前神は天照大神をかたどった鏡を祀る社と説かれている。この神話は発展解釈され、平安時代初期成立の「古語拾遺」は鏡は二度鋳られたとし、「初度所鋳少不是紀伊国日前神也、次度所鋳其状美麗是伊勢大神也」とし、鎌倉時代末期の「釈日本紀」は、日前の名は前に鋳られた日像の鏡を祀ることによるとする。さらに後世には日前神は「天照皇神之前霊」(「俊文款状」続風土記)、「伊勢皇御神と御同体」(続風土記)とされるようになっている。このように日前神は「日本書紀」成立時にはすでに准皇祖神として扱われていたことが知られる。

次に国懸神の初見は「日本書紀」朱鳥元年(六八六)七月五日条の「幣を紀伊国に居す国懸神・飛鳥の四社・住吉大神に奉りたまふ」という記事である。この国懸神はどのような神か、日前神との関係もつまびらかでない。「釈日本紀」は、天照大神を天懸神とよぶのに対して、その前霊である日前神を国懸神とよぶとし、日前・国懸は同一神とする解釈がみえ、また「続風土記」所引の国造家旧記は「以神鏡日前大神之御神体、以日矛国懸大神之御神体也」とする解釈を示している。現在神社ではこの国造家旧記の解釈をとっているが、最近の研究では、日前は檜隈とも記すべき地名、国懸の懸はカカスと読みカガヤカスの意で、神威が国にあまねく及ぶとの意であり、本来両宮は「日前に坐ます国懸神社」ともよぶべき一神社で、二座の神であった。

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改訂新版 世界大百科事典 「日前国懸神宮」の意味・わかりやすい解説

日前国懸神宮 (ひのくまくにかかすじんぐう)

和歌山市秋月に鎮座。同一境内に日前・国懸両宮があり,西方の日前神宮は日前大神を主に,相殿に思兼(おもいかね)命,石凝姥(いしこりどめ)命をまつり,東方の国懸神宮は国懸大神を主に,相殿に玉祖(たまのや)命,明立天御影(あかるたちあめのみかげ)命,鈿女(うずめ)命をまつる。両神宮を一括して日前(にちぜん)宮と通称される。《日本書紀》《古語拾遺》の天磐戸(あまのいわと)の段では,天照大神が素戔嗚尊の暴状を怒って天石窟(あまのいわや)にこもったとき,思兼神の発案で石凝姥が天香山(あまのかぐやま)の銅をとり,天照大神の神威をかたどる鏡を鋳造した旨を記したあと,〈これすなわち紀伊国にまします日前神〉と記しているが,日前神宮はその日像鏡を,国懸神宮は日矛鏡を御霊代(みたましろ)として奉斎すると伝える。天孫降臨にあたり,この鏡が紀伊国造(きのくにのみやつこ)の祖天道根(あめのみちね)命に授けられたことより神武天皇は天道根命を紀伊国造とし,国造はこの神を名草郡毛見の浜の宮にまつり,垂仁天皇16年に神託により現在地に奉遷,以後紀伊国造家紀氏が奉仕してきたという。686年(朱鳥1)天武天皇奉幣,692年持統天皇も奉幣のあと,806年(大同1)の牒に,神封日前神56戸,国懸神60戸とあるが,授位のことがみられないのは伊勢神宮と同様特別視されてのことであろう。両神宮は定期的ではないが35~50年ほどの間隔で遷宮が行われ,《続左丞抄》巻二に857年(天安1)より1235年(嘉禎1)までの遷宮年限例を記すほか,その社殿,課役等についても記している。延喜の制で,両社とも名神大社,祈年・月次・相嘗・新嘗の奉幣をうけ,のち紀伊国一宮となる。中世にも朝廷の崇敬をうけたが,その末期にはたびたび炎上,ことに1584年(天正12)国造紀忠雄は豊臣秀吉方に反抗したため災禍にあい,忠雄は一時神体を奉じて高野山麓に避難したこともあった。江戸時代には幕府また紀州藩主の保護をうけて復興し,多数の摂社・末社を擁していた。旧官幣大社。例祭9月26日。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「日前国懸神宮」の意味・わかりやすい解説

日前国懸神宮
ひのくまくにかかすじんぐう

和歌山市秋月町に鎮座する元官幣大社の日前神宮,国懸神宮の併称。祭神はヒノクマノオオカミ,クニカカスノオオカミ。いずれもアマテラスオオミカミの前霊とされる。例祭9月 26日。摂社に天道根神社,中言神社がある。

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