鎌倉時代に書かれた《日本書紀》の注釈書。著者は卜部(うらべ)兼方(懐賢)。28巻。略して《釈紀》とも。著作年代は未詳だが,兼方の父兼文が1274-75年(文永11-建治1)ころ前関白一条実経に講義したときの説にもとづいており,また1301年(正安3)には写本ができているので,その20余年の間に完成したものと考えられる。奈良~平安初期の朝廷でしばしば行われた《日本書紀》講読の記録である《日本紀私記》が,いずれも訓のみを問題にしているのに対して,兼方は父祖以来の家学を受けつぎ,諸種の私記のみならず《上宮記》《風土記》そのほか多くの古書を参照し,解題,注音,乱脱,帝王系図,述義,秘訓,和歌の7部門に分けて,注釈を集大成した。中世の学問・思想にとって重要な書物だが,今日では室町~戦国時代に散逸した多くの古書が引用されている点で尊重される。東京の尊経閣文庫に古写本(正安3年写)がある。
執筆者:青木 和夫
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『日本書紀』全30巻にわたるまとまった注釈書として現存最古のもの。目録とあわせて全29巻。卜部兼方(うらべかねかた)著。内容は開題(かいだい)、注音(ちゅうおん)、乱脱(らんだつ)、帝皇(ていおう)系図、述義(じゅつぎ)、秘訓(ひくん)、和歌の7部立てとし、『書紀』を詳しく注釈している。その父兼文(かねふみ)が1274~75年(文永11~建治1)のころ前関白一条実経(さねつね)に進講した講義案をもとに、これに平安初期以降宮廷で行われた講書の私記その他の旧説を参照し1300年(正安2)ころにまとめ上げたと思われる。他にみえない各種古典を豊富に引用するなど、その価値は大きい。
[黛 弘道]
卜部兼方(うらべかねかた)が著した「日本書紀」の注釈書。本文28巻・目録1巻。卜部家の家説と平安初期以来の博士家の諸説を集めたもの。平野流卜部氏は「日本紀の家」として知られ,平安時代以来「日本書紀」の講筵(こうえん)を行ってきた。開題・注音・乱脱・帝皇系図・述義・秘訓・和歌の7部門からなる。注釈には,30種の風土記をはじめ,逸書の引用文を多く含む。父卜部兼文が1274年(文永11)・75年(建治元),前関白一条実経以下の質疑に答えたときの資料を根底に,兼方が他の資料とあわせて分類整理,作成したと考えられている。写本には,1301年(正安3)に点校奥書がある。「新訂増補国史大系」所収。
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