星表(読み)セイヒョウ(英語表記)star catalogue

デジタル大辞泉 「星表」の意味・読み・例文・類語

せい‐ひょう〔‐ヘウ〕【星表】

恒星星雲星団などの位置・光度・スペクトル型・距離などを記載した一覧表。恒星表。恒星目録。星位表。

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精選版 日本国語大辞典 「星表」の意味・読み・例文・類語

せい‐ひょう ‥ヘウ【星表】

〘名〙 恒星・星団・星雲などの諸天体の位置(赤経・赤緯)や距離・光度・運動・スペクトル型などの特性を示した表。ボン星表(BD星表)・FK4星表・メシエ星表・ヘンリー=ドレーパー星表(HD星表)など。恒星目録。恒星表。星位表。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「星表」の意味・わかりやすい解説

星表
せいひょう
star catalogue

恒星の天球上の位置や観測的な性質(特性)についての知識を集成した星の戸籍に相当する目録。恒星目録または恒星カタログともいう。記載事項の内容により、位置を詳しく記載した位置星表、スペクトル型や等級・色指数などの特性に着目して作成した特性星表、変光星や二重星などの特殊な星を集めた天体種別星表の3種に大きく分けられる。広い意味で星表という場合、星団、星雲、銀河などの天体種別カタログも含めてさすことがある。天文学発展の歴史をみると、星の知識が増加するにつれて新しい星表が次々と刊行され、観測技術の向上や観測数の蓄積によってデータが精密になるにつれ、戸籍簿の内容も詳しくなり、改訂星表が出版されている。なかには、位置も特性も比較的詳しく記載されている総合的な性格の星表もある。最近では、多くの星表がデジタル化されて、インターネットで公開されている。

[北村正利・岡崎 彰]

歴史的な星表

現存する最古の星表は、2世紀なかばにプトレマイオスが著した天文書『アルマゲストAlmagest全13巻のなかの第7巻と第8巻がそれで、ギリシア天文学の知識を基につくった星表である。1028個の恒星の黄経・黄緯(角度の分目盛りまでの精度)と星の明るさを1等から6等までの6段階で示してある。『アルマゲスト』は天動説に基づく宇宙観を記した書の代表として知られる。そのほか、現在まで伝えられている古い星表としては、1450年にサマルカンドウルグ・ベクの著した『ウルグ・ベク星表』、1580年のティコ・ブラーエの星表などがある。

 17世紀に入り、各種天文器機(望遠鏡、子午環、時計、測微器など)の発明により、恒星位置の観測精度は目覚ましく向上した。またヨーロッパ諸国は、海外発展のため遠洋航海を進めるうえでの航海天文学の元締めとして、国立の天文台(例、イギリスグリニジ天文台)をつくるようになった。そのため、航海暦を作成するうえでの基礎資料としての星表の充実が必要となった。グリニジ天文台の初代台長J・フラムスティードは1712年『大英星表』を刊行し、星の位置が角度で10秒精度のものを出版した。この星表と『プトレマイオス星表』の恒星位置の比較から、第2代台長E・ハリーは恒星の固有運動を発見(1718)、その後の位置星表には固有運動の欄が含まれることになる。このような恒星位置の観測資料の増加とともに、第3代台長J・ブラッドリーによる光行差の発見(1727)と章動の発見(1747ころ)、ドイツのケーニヒスベルク天文台台長のF・W・ベッセルによる年周視差の発見(1838)が導かれることになる。

[北村正利・岡崎 彰]

代表的な星表

19世紀後半に入って近代的な各種の星表が刊行された。その代表的なものをあげると次のとおりである。

 位置星表では、かつてベッセルの助手であったドイツのボン天文台台長F・W・A・アルゲランダーが、1863年と1886年に北天と南天に分けて出した9.5等星までの恒星を網羅した『ボン星表』(『BD星表』ともいう)は有名である。北天星表は約32万個、南天星表は13万個の恒星位置が角度で0.1分の精度で与えられている。この種の星表はほかにも多く、南天星の『ケープ写真星表』、近年では1966年に出版された『SAO星表』4巻(アメリカのスミソニアン天体物理観測所編)などがある。それらのカタログ中の番号(BD番号、CP番号、SAO番号など)は星の名前としていまも使われている。最近では、ハッブル宇宙望遠鏡姿勢制御の基準とするために作成された『GSC星表』(『ガイド・スター・カタログ』ともいう。1500万個)もよく使われている。

 位置星表のうちでとくに精度の高いものは基本星表とよばれ、ドイツの天文計算局の編集した『FK5星表』(1988年刊)とその『拡張FK5星表』(1991年刊)が天体の位置を決める基準として現在よく使われている。包含星数はそれぞれ1535個、3117個と比較的少数だが、位置と固有運動の精度は高く、角度で0.01秒に達する。位置の精度という点では、天文衛星の精密観測に基づく『ヒッパルコス星表』(11万8000個)がさらに優れ、角度で0.001秒に迫る。その拡張版である『チコ星表』(『タイコ星表』ともいう。250万個)の位置精度は角度で0.02秒程度である。現在、『FK5星表』の位置・固有運動のデータに『ヒッパルコス星表』のデータを統合した『FK6星表』の作成がされている。

 特性星表としては、恒星スペクトル型の分類を主目的とした『ヘンリー‐ドレーパー星表』(1917年、1925年刊。『HD星表』ともいい、HD番号は星の名前としていまも使われる)が有名である。このほかに、特定の測光システム(ジョンソンHarold L. JohnsonのUBVシステムなど)による等級と色指数を定めた標準星のカタログも多数出版されている。

 総合的な性格の星表としては、エール大学から出版された7等星までの恒星の最新の多くの資料(位置、スペクトル型、色指数、三角視差視線速度、固有運動など)を集めた『輝星カタログ』が有名である。最新の第5版(1991年刊)は電子版で出されている。このほか、2000年元期で実視等級8.0等までを集めたものが、『スカイ・カタログ2000.0』(1982年刊)としてアメリカのSky Publishing Corporationより出版されており、アマチュアにも広く使われている。

 天体種別星表は、種類が多く、分光連星表、食連星表、二重星表、変光星表、星団・星雲を集めたカタログなどがある。なかでも有名なものとして、1985~1996年に旧ソ連の科学アカデミーから出版された『変光星総合カタログ(第4版)』全5巻がある。それまでに登録されたすべての変光星の情報を収めたもので、最新の4.1版(1998年)は電子版のみ。星団・星雲の星表としては、古典的には『メシエ星表』がある。これは、1781年にフランスのメシエが比較的明るい103個の星団・星雲を集めてつくった星表である。1888年にはデンマーク生まれのイギリスの天文学者ドライヤーが、銀河系外星雲(銀河)を多く含めた約8000個を集めて『NGC星表』をつくった(NGCはNew General Catalogueの略)。ドライヤーは、さらに1895年と1908年に合計約5000個の星団・星雲を追加出版した。これは『IC星表』とよばれ(ICはIndex Catalogueの略)、たとえば、アンドロメダ銀河は、メシエ星表では31番目、NGC星表では224番目であるところから、M31、NGC224などとよばれる。

 現在では、前述した星表のほとんどはデジタル化され、インターネットでアクセスできるような形のデータベースとして公開されている。日本では、国立天文台・天文学データ解析計算センターの天文データセンターがその拠点となっている。

[北村正利・岡崎 彰]

『Alan Hirshfeld, Roger W. SinnottSky Catalogue 2000.0, Second Edition(1991, Sky Publishing Corporation, Cambridge, Massachusetts)』

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改訂新版 世界大百科事典 「星表」の意味・わかりやすい解説

星表 (せいひょう)
catalogue
star catalogue

通常は恒星の天球上の位置を記載したカタログを意味するが,スペクトル,視線速度などの物理量の各種専門的な星表もある。古代の中国の星表には魏の時代(前4世紀ころ)の掃天観測に基づくといわれる《石氏星経》などがある。プトレマイオスの《アルマゲスト》にある星表はヒッパルコスの前2世紀ころの1022個の星の位置観測を138年の座標に換算したもので,その後中世までの諸星表はこれを原典として座標を換算しただけのものが多い。ティムール王朝のウルグ・ベクは,1420年サマルカンドに天文台を建設,ここでの観測の成果はウルグ・ベクの天文表(1437)にまとめられた。星表の記載形式はプトレマイオスのものと同じで,星1018個が記録されている。プトレマイオス星表以後15世紀ころまでに実測に基づいて作られた唯一の星表である。なお,望遠鏡発明以前に実測によって作られたもっとも精密な星表はチコ・ブラーエ星表である。最初の科学的な星表・星図はフラムスティードが望遠鏡を用いて実際の観測に基づいて編んだもので,フラムスティード星表(1712-25)と呼ばれている。6等よりも明るい星を各星座ごとに赤経順に1,2,3,……と命名した。この番号は今も星の名まえとして用いられている。以下,19世紀以後のおもな星表を性格別に示す。

 掃天カタログは空の広い範囲にわたって星を残らずしらみつぶしに観測して作製したもので,精度を重視する基本星表とは性格が違う。北天のボン星図・星表と南天のコルドバ星図・星表とがこれの代表で,両者で全天合計106万の10等までの星を網羅し,19世紀から今世紀初めにかけて出版。これの番号も星の名まえとして用いられている。南アフリカのケープ天文台で写真観測によって作ったケープ写真掃天星表Cape Photographic Durchmusterung(略してCPD)は,赤緯-18°以南の星45.5万個を記載している。

 基本星表は位置天文学の基本資料として最高精度の位置(赤経,赤緯とも±0.″01の桁を目標)と固有運動とを記載する。高精度の固有運動値を求めるためには長年にわたり子午環によって太陽に準拠して観測した赤経,赤緯の資料が必要で,固有運動値の精度が悪いと年数の経過に比例して位置の誤差が拡大する。最高精度の基本星表はFK4(1963)で,星を厳選したために星の数は1535にすぎない。ほかにボスLewis Boss(1846-1912)の3万3342星を収録したBGCカタログ(1937)や5268星を収録したN-30なども基本星表の性格をもつ。

 基本星表の星を基準にやや暗い星までを子午環観測して編んだカタログの代表的なものはAGK星表(Astronomische Gesellschaft Katalogの略)で,1869年に15の天文台がボン掃天星表の星を赤緯帯にくぎって分担,観測したことに始まる。初版AGK1星表は1890-1910年に出版,14.4万の星を記載,のちに緯度帯を拡張し,また固有運動の精度を向上して1960年代には第3版AGK3星表が編纂(へんさん)され,結局20万の星がFK4に準拠して記載された。SAO星表(Smithsonian Astrophysical Observatoryの略)は人工衛星の写真観測の基準とするために,星の全天一様な分布を目標としてAGK2とケープ天文台の緯度帯カタログから星を選んだ星表で,25.9万の星を記載し,位置と固有運動はFK4に準拠し,精度±0.″1を目標とする。またスペクトル型も記載してある。カルト・デュ・シエルCarte du Ciel(略称CdC,別名Astrographic Catalogue(略称AC))は,1887年に18の天文台が同型の屈折望遠鏡による分担撮影を協定して観測を開始し,乾板は2.°2角,1mmが角度1′に相当し,14等までの星の位置を精密に測った。1世紀を経てようやく完成し出版されつつある。全部で約150冊,星数は数百万にのぼる。

 星の位置以外の専門的カタログには,スペクトル型のヘンリー・ドレーパー星表(1918-24年,22.5万星),R.G.エイトケンの二重・多重星カタログ(略称ADS,1935年,1万7180組),ソ連科学アカデミーの変光星カタログ(1980年,2万8254星),またS.アダムスの分光視差カタログ(1935年,4087星),ジェンキンスの三角視差カタログ(1952-63年,6400星),ラッセル=ムーアの力学視差カタログ(1940年,2529組),ウィルソンの視線速度カタログ(1953年,1万5106星),恒星以外ではメシエ星表,NGC星表などの星雲,星団のカタログなどがある。
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百科事典マイペディア 「星表」の意味・わかりやすい解説

星表【せいひょう】

恒星表とも。恒星や星雲・星団等の名称・位置・光度・スペクトル型等を適当な順序に従って記載した一覧表。古くはプトレマイオス,サマルカンドのウルグ・ベク(15世紀),チコ・ブラーエ(16世紀),フラムスティード(18世紀)のものがある。比較的少数の恒星の精密な位置を記載して他の天体の位置決定の基準とするものを基礎星表といい,ドイツ天文計算局作製(1963年)のFK4が代表的。一定の明るさまでの恒星を集録した観測星表には,ドイツのボン天文台での観測に基づくボン掃天星図・星表,アルゼンチンのコルドバ天文台で作られた南天のコルドバ星図・星表,南アフリカのケープ天文台が写真観測から作製したケープ写真掃天星表等がある。ほかに恒星のスペクトル型を記載したヘンリー・ドレーパー星表,星雲・星団に関するメシエ星表NGC星表などがある。

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