多数の映画を一堂に集めて上映する催し。普通、多くの国が参加する国際映画祭をさすが、一つの国が輸出振興や文化交流の目的で自国の映画を外国で上映する催しをさすこともある。国際映画祭の歴史は1932年イタリアのベネチアでの開催に始まるが、第二次世界大戦で中断され、戦後フランスのカンヌ、ついでベネチアで再開、さらにベルリン、モスクワなど各地に設けられ、年とともに盛んになった。日本はすでに1938年(昭和13)にベネチアで『五人の斥候兵(せっこうへい)』などが受賞したが、第二次世界大戦後は1951年のベネチアで黒澤明(くろさわあきら)の『羅生門(らしょうもん)』がグランプリを受賞したのに始まり、溝口健二(みぞぐちけんじ)、新藤兼人(しんどうかねと)、市川崑(いちかわこん)、小林正樹(こばやしまさき)、大島渚(おおしまなぎさ)などの作品が相次いで受賞し、日本映画の芸術的評価は高まった。その意味で国際映画祭は映画芸術の国際コンクールの性格をもつが、多数の映画上映によって映画貿易の場を提供する見本市の性格をももち、また映画人の交流、合作の促進、研究会議の開催など多様な用途に供されることもある。カンヌ、モスクワなどの大規模な映画祭では参加国が80以上、参加上映200本を超えることもある。また国際映画祭には、短編だけのもの、科学映画やアニメーション映画など特定のジャンルに限定して催すものなどもあって、その種類は多い。従来おもに欧米各地で開かれてきたが、近年はインド、香港(ホンコン)などアジア地域でも開催されるようになり、世界で開かれる映画祭は年間100を超える。
日本では東京国際映画祭(当初隔年、第4回の1991年以降毎年開催)、広島国際アニメーションフェスティバル、山形国際ドキュメンタリー映画祭など十数種の国際映画祭が開かれるほか、海外映画祭での受賞も前記のほか篠田正浩(しのだまさひろ)、今村昌平(いまむらしょうへい)、熊井啓(くまいけい)、北野武(きたのたけし)、河瀬直美(かわせなおみ)らの作品に及び、幅広い世代の日本映画が評価されるようになった。
[登川直樹]
字義どおり映画の祭典であるが,公式には国際映画製作者連盟(1933創設)の規約にのっとって催されるもののみが国際映画祭International Film Festivalとして認められる。コンクール形式にするか非コンクールにするか(すなわち賞の設定や授与の有無)も連盟の規約に基づいて決められる。コンクール形式の場合には最高賞としての〈グラン・プリ〉の名称も連盟の許可なくしては使用できない。例えばモスクワ映画祭は1959年にスタートしたが,国際映画製作者連盟は,共産圏の映画祭ではチェコスロバキアのカルロビ・バリ映画祭(1950発足)にグラン・プリの名称を与えていたため,モスクワ映画祭の割込みを許さず,結局,カルロビ・バリ映画祭(偶数年開催)と交互に奇数年開催という形で公認になったといういきさつがある。また,国際映画祭に出品できるのは,国際映画製作者連盟に正式に加盟している各国の映画製作者連盟に限られるので,五社体制下の日本映画の場合はどうしても独立プロ作品にそのチャンスが与えられないことになる。65年のベルリン映画祭では,日本映画製作者連盟(映連)が推した大映の《兵隊やくざ》と東映の《にっぽん泥棒物語》が予選で落とされ,独立プロの《壁の中の秘事》(若松孝二監督)が映画祭事務当局の独自の見解で正式参加作品にされたため,映連は今後この映画祭に出品しないことを通告,その後ベルリン側からの謝罪があって出品を再開したというような実情である。
国際映画祭は開催国に,(1)自国および自国の映画の宣伝,(2)観光収入という二つの効果,利益をもたらすといわれるが,実際,世界でもっとも古い歴史をもつベネチア映画祭はムッソリーニ政権下の1932年に〈国威宣揚〉の目的で生み出され,また,どの国際映画祭も国際親善と映画芸術の発展のためにつくすことをうたいながら,実質は映画の商品見本市を主要な目的とし,同時にスターや映画人の集いの場であり文化交流の場であることを目ざしているということができる。その意味でもっとも重要なのがフランスのカンヌ映画祭(1946発足)である。映画祭として国際映画製作者連盟に登録されているのは,80年の時点で世界中に180以上もあるが,ロンドン映画祭(1958発足)やニューヨーク映画祭(1963発足)のように,各地の国際映画祭で評価を得た作品を上映する〈映画祭の映画祭〉もある。
執筆者:広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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