映画監督。長野県に生まれる。信州大学卒業後、1954年(昭和29)日活入社。ドキュメンタリー的手法で戦後史の暗部に迫った『帝銀事件 死刑囚』(1964)、『日本列島』(1965)で社会派作家として注目される。『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』(1981)もこの傾向の作品。大作『黒部の太陽』(1968)で話題をよぶ一方、典雅な純愛映画『忍ぶ川』(1972)、からゆきさん哀史の『サンダカン八番娼館(しょうかん) 望郷』(1974)等の秀作を発表。メッセージ性の強い重厚な作風に特徴があり、米兵の生体解剖を描いた遠藤周作原作の『海と毒薬』(1986)により、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した。同じ原作者による『深い河』(1995)では宗教的主題を、『愛する』(1997)ではハンセン病問題を扱うなど引き続き重いテーマに挑戦する。この姿勢は冤罪(えんざい)事件を正面から描いた『日本の黒い夏 冤罪』(2001)に至るまで一貫しており、1990年代以降少数派となった社会派監督の代表的な存在ともなっている。ほかに『天平(てんぴょう)の甍(いらか)』(1980)、『千利休(せんのりきゅう) 本覺坊遺文(ほんがくぼういぶん)』(1989)などの文芸大作がある。
[佐伯知紀]
帝銀事件 死刑囚(1964)
日本列島(1965)
黒部の太陽(1968)
地の群れ(1970)
忍ぶ川(1972)
朝やけの詩(1973)
サンダカン八番娼館 望郷(1974)
北の岬(1976)
お吟さま(1978)
天平の甍(1980)
日本の熱い日々 謀殺・下山事件(1981)
海と毒薬(1986)
千利休 本覺坊遺文(1989)
式部物語(1990)
ひかりごけ(1992)
深い河(1995)
愛する(1997)
日本の黒い夏 冤罪(2001)
海は見ていた(2002)
『熊井啓著『映画と毒薬』(1987・キネマ旬報社)』▽『熊井啓著『映画の深い河』(1996・近代文芸社)』▽『熊井啓著『映画を愛する』(1997・近代文芸社)』▽『熊井啓編著『日本の黒い夏――冤罪・松本サリン事件』(2001・岩波書店)』
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