日本大百科全書(ニッポニカ) 「景観地理学」の意味・わかりやすい解説
景観地理学
けいかんちりがく
Landschaft-geographie ドイツ語
ドイツを中心として20世紀前半に発達した地理学の一分野。地表の形態を分析し、その構造や変化を研究する。英語のランドスケープlandscapeは景色であり、審美的な対象ともなる風景であるが、ラントシャフトLandschaftは国土の性格を示す科学的な対象であって、景域とも訳されている。J・G・グラネJohannes G. Granö(1882―1956、フィンランド)によれば、人間の視覚は近景から中景、遠景へと拡大し、おのおのによってとらえられる風景要素の種類、形、色、性質などが異なる。たとえば近景では、木の葉が識別され、中景は木々が、遠景は森として知覚される。景観は個々人の感覚を超えた客観的な形象である。サウアー(アメリカ)によれば、景観の形態は地理の本質の表現であり、自然景観と文化景観とに2大別される。今日では人間の影響がまったくない自然景観あるいは原始景観をみいだすことがむずかしい。景観は歴史的に形成されるので、条里地割、集落形態の発達などに歴史地理学からの研究が多い。また、景観は人間と自然の働きかけによって組み立てられた生態系であり、耕作景観、村落景観、都市景観なども研究されている。景観図、宇宙・空中写真、リモート・センシング(遠隔探査)による画像などによって景観解析を行い、微地形による土地利用の違い、林相、地層、考古遺跡などを探査することができる。なお、日本において景観地理学を広めたのは辻村太郎である。1950年代からの景観地理学の研究は、景観形成の歴史的研究と景観解釈の研究に分けることができる。前者は、民族の好みと社会階層が景観に影響を与えることを示し、後者は人工物の景観の意味を明らかにし、さらにその背景となる文化史の重要性を指摘した。1980年代から90年代にかけては、景観を社会・文化論から解釈しようとする研究が増加し、社会文化的過程や政治過程から景観を解釈する立場が強調されるようになった。
[木内信藏・菅野峰明]
『辻村太郎著『景観地理学講話』(1937・地人書館)』▽『中村和郎・手塚章・石井英也著『地域と景観』(1991・古今書院)』▽『渡辺欣雄著『風水気の景観地理学』(1994・人文書院)』