曇無讖(読み)ドンムセン

デジタル大辞泉 「曇無讖」の意味・読み・例文・類語

どんむせん【曇無讖】

[385~433]中インドから北中国の北涼に来た僧。「大般涅槃だいはつねはん」「金光明経」「仏所行讃」などを漢訳。王の政治顧問ともなったが、刺客に殺害された。どんむしん。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「曇無讖」の意味・わかりやすい解説

曇無讖
どんむせん
(385―433)

中国の訳経僧。中インド出身。サンスクリット名はダルマクシェーマDharmakema。「どんむしん」とも読む。クチャ亀茲(きじ))、敦煌(とんこう)を経て、北方民族匈奴(きょうど)族の国、北涼(ほくりょう)に入った。北涼の都、姑臧(こぞう)で、河西(かさい)王沮渠蒙遜(そきょもうそん)(368―433)の帰依(きえ)を受け、諸経典の漢訳を遂行するかたわら、王の政治顧問ともなり、北涼の至宝と仰がれた。訳出経典のうち、とくに『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』40巻(その後これを、法顕(ほっけん)訳6巻本と対校してつくった36巻の南本に対して、北本とよぶ)は中国涅槃宗興起を促し、また、『菩薩地持経(ぼさつじじきょう)』(『瑜伽師地論(ゆがしじろん)』の一部)、『金光明経(こんこうみょうきょう)』などは、後世の中国仏教に大きな影響を与えた。彼は433年(義和3)、『涅槃経』の後分にあたる原典を求めて西行を企て旅に出たが、その途中、怪しまれて蒙遜の刺客に殺された。

[柏木弘雄 2017年3月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「曇無讖」の意味・わかりやすい解説

曇無讖 (どんむしん)
Dharmarakṣa
生没年:385-433

中国,北涼で訳経,宣教した中インド出身の僧。カシミール(罽賓),クチャ(亀茲),鄯善(ぜんぜん)を経て敦煌に至り,412年(玄始1),北涼の沮渠蒙遜により姑臧(甘粛省武威県)に迎えられた。3年間漢語を学んでのち,《大般涅槃経》《金光明経》《大集経》《大雲経》《海竜王経》などを訳出した。これらの漢訳経典は,ともに中国仏教の発展上で重要な意義をもつものばかりで,とくに《涅槃経》の影響は大きい。呪術に通ずることから北魏に請われ,出国を恐れた沮渠氏に殺された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「曇無讖」の意味・わかりやすい解説

曇無讖
どんむしん
Dharmakṣema

[生]385
[没]433
中部インド出身の僧。「どんむせん」ともいう。玄始1 (412) 年に北涼に来た訳経僧。王の保護を受け,訳業に従事し,政治顧問ともなり,北涼の至宝と仰がれた。『涅槃経』の翻訳は涅槃宗の興起となり,教学に及ぼした影響が大きかった。永和1 (433) 年完全な原本を求めての旅行中に刺客に殺された。

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世界大百科事典(旧版)内の曇無讖の言及

【観音】より

…後秦のクマーラジーバ(鳩摩羅什)が《妙法蓮華経》を再訳してからは,観音信仰はしだいに隆盛となり,東晋末にはすでにかなりの観音像が造られた。北涼の曇無讖(どんむしん)がパミールを越えて河西に行き,王の沮渠蒙遜の難病をみて,観音菩薩はこの地に縁があるといって普門品を念誦することをすすめ,病苦を除いたことから,普門品だけを単独に流布することになったといわれる。これが《観音経》である。…

【金光明経】より

…サンスクリット本,チベット訳,漢訳のほか,ウイグル語,満州語,蒙古語などに訳され,東アジアに広く普及したことが知られる。漢訳は5種あったが,現存するのは,曇無讖(どんむしん)訳《金光明経》4巻(5世紀初め),宝貴らが従来の諸訳を合糅(ごうじゆう)した《合部金光明経》7巻(597),義浄訳《金光明最勝王経》10巻(703)の3種で,後世重視されたのは義浄訳である。内容は,仏の寿命の長遠性,金光明懺法,四天王による国家護持や現世利益など雑多な要素を含み,密教的な色彩が強い。…

【大雲経】より

…中国,北涼の曇無讖(どんむしん)によって漢訳された《大方等無想大雲経》6巻の略称。国王の仏教保護を説くこの仏典には,浄光天女が王位をつぐ,という一節があった。…

※「曇無讖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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