クチャ(読み)くちゃ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クチャ」の意味・わかりやすい解説

クチャ
くちゃ / 庫車

中国、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の天山(てんざん)南麓、西域(せいいき)北道のほぼ中間に位置するオアシス、およびその中心となる県をさす。クチャ県はアクス地区に属し、人口46万2588(2010)。2011年には県西部にクチャ空港が開港した。

 亀茲(きじ/きゅうじ)の名で漢代の記録にみえ、匈奴(きょうど)や後漢(ごかん)に服属したこともあるが、2世紀以後は独自の発展を遂げた。発掘された文書によって、クチャでは唐代までインド・ヨーロッパ語に属するトカラB語(クチャ語)が用いられていたことがわかっている。唐代には一時、唐や吐蕃(とばん)の支配を受け、9世紀以降ウイグル化した。

 クチャの王家(漢代以来、白姓を名のる)は仏教を手厚く保護したため、クチャ周辺には数多くの仏教遺跡がある。キジル、クムトラなどの石窟(せっくつ)寺院址(し)には、主として5~9世紀の壁画が描かれている。またクチャ北方のスバシ伽藍(がらん)址(スバシ故城)で日本の大谷(おおたに)探検隊が発掘した木製布張り舎利(しゃり)容器は、円錐(えんすい)形の蓋(ふた)と箱の胴部に、楽器を演奏し舞踊する人物とエロスなどが描かれている優品である。これは古来、亀茲楽の名で中国や日本にも知られたクチャ音楽の演奏場面を示すものとして興味深い。

[林 俊雄・編集部 2018年1月19日]

世界遺産の登録

2014年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により「シルク・ロード:長安‐天山回廊の交易路網」の構成資産として、スバシ故城、クズルガハ烽火台(ほうかだい)が世界遺産の文化遺産に登録された(世界文化遺産)。

[編集部 2018年1月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「クチャ」の意味・わかりやすい解説

クチャ (庫車)
Kucha

中国,新疆ウイグル自治区にある同名県の県都。中部天山の南麓,クチャ川とムザルト川とが平地に流れ出たところに位置した天山南麓オアシス群の一つ。古来,南のホータンと並びタリム盆地内の有力な都城であった。漢・唐並行の時期にはクーチーと呼ばれ,中国では亀茲(きじ),丘茲,屈茲,邱慈,屈茨,苦叉,曲先,俱支囊などと表記された。647年に唐が滅ぼすまで王姓は〈白〉で,都城は漢・南北朝に延城,唐代に伊邏廬城と記され,アーリヤ人に属する民族がインド・ヨーロッパ語系のトカラB語を用いていた。豊富な鉱産・農産物があり,錦,毛織物産出,その実体キジル石窟等の石窟壁画人物にうかがえる。また管絃が名高く,唐の礼楽の一つに〈亀茲楽〉として採用された。北方の天山山中の牧草地ユルドゥズを基地とした西突厥と6世紀末から交渉をもち,また658-790年には唐の安西都護府が設置された。9世紀中ごろウイグルがトゥルファンに進出すると,その勢力はクチャに及び,13世紀初めまで支配をうけた。当地は4世紀ごろから急速に北西インドの仏教中心地と関係が深まり,インド人の来住も多く,またここを通ってインドへおもむく中国僧も増えた。仏教遺跡ではキジル石窟やクムトゥラ石窟,シムシム,アチグイレク,タイタイル,キジル・ガハなどの石窟寺が庫車を中心に東西120kmの中に分布し,また玄奘が阿奢理弐とするドルドル・アクル,玄奘が昭怙釐,《梁高僧伝》が雀梨大寺,《釈氏西域記》が雀離大清浄と記すスーバーシなどの寺院跡がある。これらの遺跡に着目して,20世紀初頭から日本の大谷探検隊をはじめ各国の探検隊が調査を行った。
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百科事典マイペディア 「クチャ」の意味・わかりやすい解説

クチャ

中国,新疆ウイグル自治区,天山山脈南麓のタリム盆地北部の地名で,オアシスの町。漢字では庫車。現在は阿克蘇(アクス)地区庫車県となっており,県政府所在地は庫車鎮。古来東西交通の中継地として知られ,漢〜宋代には亀茲(きじ)と呼ばれ,唐代には安西都護府が置かれた。付近にはキジル,クムトゥラ,スーバーシの千仏洞など,仏教遺跡が多い。現在は南疆の商業中心の一つで,綿を多く産する。住民はウイグル族が多い。47万人(2014)。→キジル石窟
→関連項目グリュンウェーデルクルレル・コック

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「クチャ」の解説

クチャ
Kucha 庫車

新疆(しんきょう)ウイグル自治区,天山南麓のオアシス都市。漢代から唐宋の頃まで亀茲(きじ)の名で知られ,漢代には西域都護府,唐代には安西都護府が置かれるなど,中国の西域経営の中心基地であった。古くから白(はく)という姓の王家のもとに,西域北道の代表国としてホータンとともに東トルキスタンの文化の中心であった。特に小乗仏教が篤く信仰され,鳩摩羅什(くまらじゅう)もその出身である。唐代以降は,漢人僧侶も多く存在したが,9世紀の中頃ウイグルの進出に伴いトルコ化し,やがてイスラーム化した。18世紀には,清朝の間接支配下に置かれたが,1864年,清朝支配に抗するムスリムの反乱がクチャより起こり,84年には新疆省の成立とともに直轄支配地となった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「クチャ」の解説

クチャ
Kùchē

中国新疆 (しんきよう) (シンチヤン) ウイグル自治区,天山 (テンシヤン) 山脈南麓にあるオアシス都市
前漢〜宋代には亀玆 (きじ) といい,清代には庫車 (クチヤ) といった。西域経営の中心で,住民はアーリア系の民族であったが,6世紀末突厥 (とつけつ) の支配下にはいった。唐代の658年,安西都護府が置かれたが,9世紀以後ウイグルの進出によってトルコ化された。その後チャガタイ−ハン国,ジュンガル部の支配下にはいるが,18世紀に清の領土となった。付近にキジールの千仏洞がある。仏僧鳩摩羅什 (くまらじゆう) はここの生まれ。

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