有機金属化合物の一種で,水銀と炭素との直接結合を有する化合物の総称。現在ではとくにアルキル基またはアリール基と結合した水銀化合物を意味することが多い。
(1)ジアルキル水銀 HgR2(R=アルキル基)の一般式で表される。ジメチル水銀(化学式Hg(CH3)2。沸点92.5℃,比重3.069),ジエチル水銀(Hg(C2H5)2。沸点159℃,比重2.466),ジノルマルプロピル水銀(Hg(n-C3H7)2,沸点190℃,比重2.021),ジイソプロピル水銀(Hg(i-C3H7)2,沸点63℃(10mmHg),比重2.002)のほか,ブチル基,ペンチル基などを有する多種の化合物が知られている。通常,常温で無色の液体であり揮発性を有する。アルキル基の鎖長が長くなるほど比重は小さくなる。
(2)ジフェニル水銀 化学式Hg(C6H5)2,沸点204℃(10mmHg),比重2.318。
(1)(2)はいずれもHg-C結合は共有結合性で,C-Hg-C結合は直線である。水銀は同族の亜鉛やカドミウムの化合物と異なり,酸素に対する親和性が強くないため水や空気に安定である。しかし酸によって分解され,また太陽光によって速やかに分解しラジカルを生成する。γ線によるHg(CH3)2の放射線分解ではメタンCH4,エタンC2H6,エチルメチル水銀Hg(CH3)(C2H5),水素,水銀,重合体などが生成し,この反応においてもラジカルが生成することを示している。
(3)RHgX(R=アルキル基) 結晶性固体。X=Cl,Br,I,CN,SCN,OHのときはR-X結合は共有性で,化合物も水より有機液体に溶けやすい。X=1/2SO4,NO3のときは化合物は塩の形([RHg]⁺[NO3]⁻など)である。また[(CH3)Hg(OH2)]⁺は環境汚染にとくに重要である。
有機水銀の有毒性が注目されたのは,スウェーデンで製紙工場の廃液が水銀を含むことが見いだされたのが最初である。次いで水俣,イラクで水銀を原因とする病気が見いだされ,さらに(CH3)Hg⁺が中枢神経系に複雑なしかも不可逆的障害を与えるためであることがわかった。環境中の水銀は,生物的メチル化反応により(CH3)Hg⁺に変化する。ビタミンB12,コバロキシム等Co-CH3結合を有するものは,CH3をHgに結合させる作用をもつ。微生物でもこのような作用をもつものが多い。(CH3)Hg⁺は水溶液中では水和し[(CH3)Hg(OH2)]⁺を生じ,これは硫黄原子に対する親和性が強く,そのためタンパク質,ペプチドの硫黄原子と結合して毒性を示すと考えられている。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アルキル基やアリール基などの炭素原子と水銀の結合をもつ化合物の総称で、ジアルキル(またはジアリール)水銀R2Hg型と、ハロゲン化アルキル(またはアリール)水銀RHgX型の二種類がある(Rはアルキルまたはアリール、Xは一価の酸基)。ジアルキルおよびジアリール水銀は非極性で、揮発性があり、無色、有毒な液体または低融点の固体である。たとえば、ジメチル水銀、ジエチル水銀、ジフェニル水銀などである。有機水銀化合物は、空気あるいは水によっては分解されないが、光または熱により遊離基的に分解される。また、ジアルキル水銀は、他の金属をアルキル化する性質があるため、しばしば有機金属化合物の合成に利用される。RHgX型化合物は、結晶性固体であり、Xの種類により共有結合化合物であったり、イオン結合化合物であるので、水よりも有機溶媒によく溶けるものもある。たとえば、ヨウ化メチル水銀などである。
[西山幸三郎]
一般的合成法は、塩化水銀とグリニャール試薬を適当なモル比で反応させる。また、カルボン酸の水銀塩から脱炭酸することにより得られる。不飽和炭素化合物と水銀塩との反応は、中間に有機水銀化合物を経由する水銀化およびオキシ水銀化などとして有機合成上工業的にも有用な方法であったが、公害問題などを含めた諸条件のため、ほとんど使用されなくなった。
[西山幸三郎]
無機水銀は動物の体内に入っても排泄(はいせつ)が迅速であるうえ、中枢神経系への侵入はほとんどない。一方、有機水銀は体内に入ると中枢神経系へ蓄積される。公害病などの原因物質として問題になったメチル水銀は、工場から直接排出されたか、工場由来の無機水銀がバクテリアのメチルコバラミンによりメチル化されたものと考えられている。海水中のメチル水銀は魚介類のえらを通して蓄積され、この魚介類を食べた野鳥や人間の体中に蓄積され、中枢神経が冒されるということになる。フェニル水銀は除草剤などとして使用されていたが、有機水銀の毒性が明らかになってから、その生産、使用は中止された。
[西山幸三郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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