固体材料,機械,構造物の変形・強さ・振動などを数値的に解析する手法の一つ。あらゆる工学分野の物理現象の数値解析法あるいはシミュレーション解析法として広く利用されている。有限要素法に類する近似解析法は古くからあったが,1954年ころアメリカのボーイング社の技術者により,航空機の後退翼の剛性計算のために開発されたマトリックス構造解析法matrix method of structural analysisが今日の有限要素法の原型とされている。当時は航空機がプロペラ機からジェット機に取ってかわり,飛行速度が音速を突破した時代であり,それに伴い今日の旅客機に見られる後退翼が採用されるなど航空機設計が大幅に変更され,同時により厳密な構造解析が要求されるようになった。また時を同じくしてIBM社が科学技術者用のコンピューターを発表している。このような背景のもとで,マトリックス代数という数学言語で組織的に書かれた有限要素法は,コンピューターの機能とうまく適合し,コンピューターが大型化,高速化し,広く普及するのに歩調を合わせ,急速な発展と応用の拡大を遂げた。当初は単純な形状の物体の線形問題の解析が主であったが,現在では複雑な構造物の非線形問題も解析できるようになった。とくに航空機,ロケット,橋梁(きようりよう),原子力圧力容器,化学プラントなどの機械・構造物の設計や安全性確保に寄与するところが大きい。また70年代に入り,このような構造工学の分野のみならず,流体,熱,電磁気,生体などの工学・理学の広範な分野において有限要素法が用いられるようになった。80年代には高度な数学的手法を導入しての理論的基礎がほぼ完成し,汎用化,実用化の段階に達している。日本においても,1964年ころより本格的研究が始まり,現在では世界の第一線のレベルに達し,基礎技術として科学技術の発展に寄与している。
有限要素法は,円の面積を求めるのに,方眼紙に円を描き,円に含まれる升目の数から近似的に求める方法と直観的にはよく似ている。ある有限の大きさの物体中の物理量u(x,y)(たとえば,変位,温度,圧力,電流など)の変化や分布を有限要素法で解析する場合を考える。まず,図に示すように物体を有限の大きさの要素elementに分割し,この要素上の複数個の節点nodeに物理量を代表させる。これを離散化といい,図中,
がそれに当たる。またこの物体を支配する方程式を個々の要素について近似的に満足するようにする。この近似に際し,エネルギー原理ないし変分原理という数学的手法を用い,これにより要素の剛性マトリックスないし剛性方程式という基礎式が得られる。物体は節点を介して結合された要素の集合体とみなせ,個々の要素の剛性マトリックスを重ね合わせ全体のマトリックスを構成し,これに与えられた境界条件を導入し,大規模な連立一次方程式を解くことにより,物体内の各節点における物理量が求められることになる。この有限要素法の計算には,大型のコンピューターが必要となり,その計算手順を指示するプログラムがいったん完成すれば,物体の形状や境界条件によらず共通して使用できる汎用性に富んだ数値解析法である。前述のように有限要素法は物体の内部領域も要素に分割するが,最近物体の境界のみを要素に分割し数値解析する境界要素法boundary element methodも開発され,急速な発展を見せている。また有限要素法や境界要素法などの数値解析法を統一的に説明できる重み付き残差法method of weight residualsの理論体系もでき,今後は微分方程式で記述されるあらゆる物理現象あるいは物質移動現象が,複雑な境界条件の下で有限要素法あるいは境界要素法により,または両者の協力により数値解析できるようになるものと期待されている。
執筆者:結城 良治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
コンピュータによって物理シミュレーションを行うための手法の一種。連続な物体を有限個の「要素」に分割し、各要素の特性を単純な数学的モデルで近似し、連立方程式の形にして全体の挙動を解析する。
差分法と比較すると、複雑な形状の解析が容易で、汎用(はんよう)プログラムをつくりやすい、計算上のモデルと実物との対応が明快で使いやすい、などの点が優れている。
また、強力な機能をもつ汎用プログラムが開発されていて、数学やプログラミングの知識がなくても、ブラックボックス的なツールとして工学的センスだけで解析できるので、設計実務に広く使われている。
[戸川隼人]
有限要素法は最初、飛行機の翼の詳細な強度計算をするために開発された。平板や曲面の板を縦横に組み合わせて強度をもたせたモノコック構造の計算が可能で、補強材を併用した構造、穴のあいた板、管の継手部分などの解析などによく用いられる。
土木関係では橋梁(きょうりょう)、トンネル、高速道路、ダムの強度計算、津波や河川の流れの計算などに、建築関係では高層ビル、長いスパンの梁(はり)の解析(その応用として、大型ドームの設計)、プラント建設関係では、配管とタンクを含む全体としての振動解析、熱解析、流体解析などに利用される。
近年は非線形問題の計算技術が進歩し専用のソフトウェアが開発された結果、塑性加工のシミュレーション、衝突時の挙動解析、半導体デバイスの設計など、従来の常識を超える高度な応用が可能になった。
また理工学教育において、直感的でわかりやすく、先端技術に直結する教育ツールとして注目されている。
[戸川隼人]
『戸川隼人著『有限要素法へのガイド』(1979・サイエンス社)』▽『鷲津久一郎・山田嘉昭・山本善之・川井忠彦編『有限要素法ハンドブック』全2冊(1981、1983・培風館)』▽『K. J. Bathe著、菊地文雄訳『有限要素法の数値計算』(1996・日本コンピュータ協会)』▽『菊地文雄著『有限要素法概説――理工学における基礎と応用』新訂版(1999・サイエンス社)』▽『黒田英夫著『Visual Basicによる数値解析プログラム』(2002・CQ出版)』
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