朝鮮舞踊(読み)ちょうせんぶよう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「朝鮮舞踊」の意味・わかりやすい解説

朝鮮舞踊
ちょうせんぶよう

古来、朝鮮民族は世界でもとりわけ歌舞好きであり、その民族性と芸術性は今日にも受け継がれている。舞踊を朝鮮語ではチゥムという。チゥム(朝鮮舞踊)は大別すると、宮廷舞踊(呈才舞(チヨンジエム))と民俗舞踊に分けられるが、古くはその区分はなかった。1920年代に始まる現代民族舞踊(エスニックダンス)は、それらを舞台舞踊化したものである。

 紀元前の三韓(さんかん)時代、馬韓(ばかん)で天君(チヨングン)、濊(わい)で舞天(ムチヨン)、夫余(ふよ)で迎鼓(ヨンゴ)などが盛んで、昼も夜も歌舞飲酒がなされたと中国の古文献にある。それらはシャーマニズムによる祭天儀式、つまり巫俗(ふぞく)神事で、朝鮮舞踊にはこのようなシャーマニズム的要素が強く残っている。『三国史記』や『三国遺事』によると、古新羅(しんら)(前57~後668)には伽耶(かや)琴にあわせて歌い舞うものと、歌を伴わない舞とがあり、前者に笳舞(カム)、思内舞(サネム)、小京舞(ソキヨンム)、後者に韓岐舞(ハンギム)、美知舞(ミチム)、確琴舞(フアククムム)などがあった。高句麗(こうくり)、百済(くだら)、新羅の三国時代の後期(4~7世紀)には、仏教舞踊や散楽(さんがく)、伎楽(ぎがく)などの外来舞踊が伝来した。高句麗の舞踊塚や安岳(あんがく)の古墳壁画、新羅の土偶土器などに舞姿がみられる。統一新羅時代(668~935)には、西域(せいいき)や中国などからの外来舞踊と、神話伝説などにちなむ処容舞(チヨヨンム)、霜髯舞(サンヨオムム)(山神舞)、剣舞(クウオムム)、それに狻猊(サネ)(獅子(しし)舞)や仏教系の無舞(ムエム)など多彩を極めた。この時代に宮廷舞踊である呈才舞の性格が形成されていった。

 高麗(こうらい)時代(918~1392)になると、呈才舞は唐楽(タンアク)呈才と郷楽(ヒァンアク)(俗楽)呈才とに分かれた。『高麗史』の楽志条には雅楽、唐楽、郷楽の三つがあり、雅楽には佾舞(イルム)、唐楽には献仙桃(フオンソオンド)、抛毬楽(ポクラク)、蓮花台(ヨンホアデ)、郷楽に舞鼓(ムゴ)、動動(ドンドン)、無舞などが記載されており、宮中儺礼(ナレ)に処容舞(仮面舞)が献舞された。李朝(りちょう)(1392~1910)では、雅楽と唐楽を正楽に、郷楽を俗楽として宮廷で引き継いだ。それらは『楽学軌範(がくがくきはん)』に詳述されている。

 民俗舞踊は宗教系と芸能系の二つに分けられ、前者は巫俗系と仏教系に、後者は仮面舞(タチゥム)と遊芸とに大別できる。シャーマンの神事である巫祭(クッ)では巫舞が大きな比重を占め、降神舞をはじめその種類は多彩で、朝鮮舞踊の形成に大きな影響を与えてきた。仏教系のものは現在その数が少なく、わずかに僧舞(スンム)、法鼓舞(ボブコム)、哱囉舞(バラム)、蝶(ちょう)の舞などが作法舞(ジアクボプム)(仏教舞踊)として寺院に伝承されている。楊州別(ヤンジユビヨル)山台劇(サンデノリ)や鳳山(ポンサン)タチゥムなどの仮面劇は舞踊を主体としており、無数のタチゥムがある。旅芸人のサダン(社党)たちの風物(プンムル)、遊女や妓生(キーセン)たちの舞踊、農楽(のうがく)(ノンアク)やカンカンスレなどの民俗芸能の群舞など、質・量ともに豊かである。

 舞踊家の韓成俊(1875―1941)は伝統舞踊を舞台舞踊化する道を切り開き、石井漠(ばく)に師事した崔承喜(さいしょうき)と趙沢元(ちょうたくげん)は現代民族舞踊の形成に尽くし、朝鮮舞踊の名を世界に広めた。1945年以後、崔はピョンヤンを基点に、趙はソウルを基点に活動し後継者を育成した。崔承喜舞踊研究所は崔が消息を絶つ1960年代後半までその中心的存在であった。北朝鮮では、崔の代表作『沙道城(サドソオン)物語』のような集団舞踊、舞踊劇が盛んで、今日も各道の舞踊団が受け継いでいる。

 韓国(大韓民国)では、国立国楽院(1948設立)は伝統音楽と伝統舞踊を継承し、民俗舞踊家は人間国宝に指定されている。国立舞踊団(1962設立)では民俗舞踊と現代民族舞踊を継承・発展させ、『元暁(げんぎょう)大師』『嫁ぐ日』のような創作舞踊劇を発表し、民族舞踊の育成の場になり、さらに多くの個人舞踊団が活動している。趙沢元、金白峰(きんはくほう)などの果たした役割は大きく、今日、大学の舞踊学科から毎年1000人前後の若い舞踊家が巣立ち、舞踊人口は非常に多い。

[金 両 基]

『崔承喜著『朝鮮舞踊基本譜』(1958・平壌・朝鮮芸術出版社)』『張師勛著『韓国伝統舞踊研究』(1977・一志社)』『鄭昞浩著『韓国舞踊』(1985・悦話堂)』


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