家庭医学館 「未熟児の育て方」の解説
みじゅくじのそだてかた【未熟児の育て方】
◎病院での未熟児保育と治療
◎退院後の世話
◎未熟児が生まれたら
●設備の整った専門の施設へ
未熟児は、体温調節や呼吸機能なども未熟であり、母親からの免疫抗体(めんえきこうたい)も十分に移行されていないため、感染を受けやすく、常に細心の注意を払い育てていかなければなりません。
そのために、温度や湿度が調節できる保育器や、呼吸管理のできる設備が整った未熟児室や、さらに高度な設備が整っているNICU(新生児集中治療室)で育てていきます。そこでは、体重や在胎(ざいたい)期間、赤ちゃんの症状により、適切な治療が行なわれます。
元気があり、体重が2000g以上ある未熟児で、哺乳(ほにゅう)びんからお乳を飲むことができるのであれば、家庭で育てることもできます。しかし、2500gまでは、専門施設にあずけ、専門家の判断にしたがったほうが安全です。
また、母子保健法の「低体重児の届出」義務により、2500g未満の乳児が出生した場合は、都道府県知事、保健所を設置する市または特別区に届け出なければなりません。
そのほか、養育を必要とする未熟児に対して、その養育に必要な医療(養育医療という)の給付が行われ、費用が支給されます。これは、都道府県などの地方公共団体から公費で支給されるもので、医療費の全額が支給されます。しかし、世帯の所得に応じた費用が徴収されることもあります。
◎病院での未熟児保育と治療
●未熟児の特徴と特有の症状
低体温 熱の産生が少ないこと、体表面積が大きいこと、皮下脂肪が少ないことが原因といわれています。この低体温を防ぐため、保育器に入れ、体温の下降を防ぎます。
循環障害 胎児(たいじ)が出生し、新生児となって呼吸が開始されると、静脈管(じょうみゃくかん)と動脈管(どうみゃくかん)の閉鎖と心臓の卵円孔(らんえんこう)という部分の閉鎖がおこり、肺呼吸が行なわれるようになります。しかし、未熟児の場合、循環系の適応障害により、動脈管が開いたまま残ってしまう動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう)(「動脈管開存(症)」)が問題になることが多くあります。
無呼吸発作 無呼吸発作とは、呼吸停止時間が20~30秒以上におよび、その間、チアノーゼや心拍数の低下をともなうもので、在胎34週までの赤ちゃんにおこりやすいものです。自然に回復する場合もありますが、刺激を与えないと回復しない場合もあります。
回復が遅れると、重篤(じゅうとく)な脳障害や死に至ることもあります。
呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)(RDS) 未熟児の肺は、第一呼吸(出生後初めての呼吸)によって一度は拡張しても、虚脱におちいりやすい傾向にあります。
これは、出生後の肺胞(はいほう)をふくらませるために必要な肺サーファクタントと呼ばれる界面活性物質が不足していることによりおこる肺拡張不全です。
サーファクタントは、在胎22~25週ごろから産生されますが、RDSは、この肺サーファクタントの活性低下により生じます。
症状は、多呼吸(呼吸数が多くなる)、口呻吟(こうしんぎん)(うめき声をあげる)、陥没(かんぼつ)呼吸(呼吸のたびに胸がへこむ)、チアノーゼなどから始まります。
RDSは、重篤な呼吸障害を示す代表的な病気でしたが、最近では、サーファクタント補充療法が、呼吸障害のもっとも有効な治療法として確立されています。
低血糖(ていけっとう) 低血糖の定義は、未熟児の場合、血液中のぶどう糖濃度(血糖値)が20mg未満といわれ、未熟児におこりやすい症状の1つです。
脳のエネルギーはぶどう糖に依存しているため、その不足は脳障害をひきおこすため、低血糖の症状がなくても、静脈に糖分を点滴することもあります。
未熟児網膜症(みじゅくじもうまくしょう) 網膜血管の異常増殖を主体とする病気で、不適切な酸素投与が引き金となることが多いものです。しかし、酸素と無関係で発症するものもあります。
生後3週間ごろから眼底検査を実施し、急激な病変には光凝固(ひかりぎょうこ)術や冷凍光凝固(れいとうひかりぎょうこ)術を行なうこともあります。
●未熟児の栄養
未熟児は消化吸収機能が未熟であり、お乳を吸う力も弱いため、直接お母さんの乳房から母乳を与えることは、体力の消耗につながります。そのために、哺乳(ほにゅう)びんで授乳したり、経管栄養(けいかんえいよう)といい、ポリエチレンのカテーテルを鼻の穴から胃の中に入れ、母乳栄養を与えたりします。
また、できるだけ母乳を与えるようにします。その理由としては、母乳には免疫物質が多く含まれており、感染症の発症が少ないことや、新生児壊死性腸炎(しんせいじえしせいちょうえん)の発症が少ないことがあるからなのです。
最近では、母乳中のタウリンが未熟児の脳の発達をうながすことなども理由となっています。ただし、できるだけ母乳栄養がのぞましいのですが、人工栄養でも十分に赤ちゃんは育ちます。
●未熟児と両親
かつての未熟児室は感染予防がもっとも重視されていたため、両親の面会を禁止する場合もありました。しかし、そのことが母子関係に大きな問題を残すことがわかり、現在では感染予防を考えながら、母子の早期接触や、父親の接触も積極的にうながしています。
◎退院後の世話
●退院の目安
未熟児の赤ちゃんは、体重が2500g以上になり、ほかに合併症がなく、家庭で育ててもだいじょうぶという状態で退院します(目安として、2000gの未熟児が2500gになるには、4週間~6週間かかります)。ここまでくれば安心です。あまり神経質にならずに育ててください。
また、退院時には、医師や看護師から注意しなければならない点などの指導がありますので、そのことはきちんと守るようにしてください。
●赤ちゃんの環境
未熟児は、成熟児に比べて抵抗力が弱いため、かぜなどの感染症予防につとめ、体力の消耗をさせないことがたいせつです。
室温は20~25℃くらいに保つようにします。
●感染予防
母親以外にも、赤ちゃんに触れる人は必ずうがいをし、手を洗ってから触れるようにしてください。また、赤ちゃんの世話をする人は、自らの健康管理にも注意してください。ペットなども、赤ちゃんとは別の部屋で飼うか、実家にあずけるとよいでしょう。
また、とくに熱が出たり、哺乳状態やきげんが悪くなければ、ふつうに沐浴(もくよく)し、清潔を心がけてください。
特別な異常がなくても、定期的な乳児健診を受け、発育や発達の状態には注意してください。
●授乳のしかた
赤ちゃんには赤ちゃんのペースがあります。早く大きくしようとあせらず、赤ちゃんに合わせて授乳してください。
飲む量が少なかったり、体重が増えない場合は、医師に相談し、指示を受けてください。
未熟児の母乳栄養確立のためには、入院中から積極的に乳房マッサージや搾乳(さくにゅう)を行なってください。その理由は、赤ちゃんが乳房を吸啜(きゅうてつ)することが少なく、刺激が少ないぶん母乳の分泌(ぶんぴつ)が少なくなってしまうためです。
お母さんは先に退院した後も、母乳パック(滅菌されたビニールの袋。薬局で市販されている)にしぼった母乳を入れて病院に運ぶようにし、いつ赤ちゃんが乳房から直接お乳を飲めるようになってもよい状態にしておきましょう。そうしておくことで、赤ちゃんの退院後も、母乳を与えることができます。
母乳は、ふつうの冷蔵庫(4~6℃)に保存する場合、2日以内であれば細菌学的に問題はなく、長期に保存する場合は、冷凍室(マイナス2℃)で1か月の保存が可能です。
冷凍した母乳を解凍する場合は、40℃の湯の中で徐々に行ないます。そして、一度解凍した母乳を飲み残してしまったときには、細菌繁殖している場合もあるので、廃棄してください。
また、人工栄養に頼る場合は、台所や器具の清潔に注意し、粉ミルクの缶に書いてある説明書にしたがい、ミルクをつくってください。