未熟児保育(読み)みじゅくじほいく(英語表記)care of the premature infant

日本大百科全書(ニッポニカ) 「未熟児保育」の意味・わかりやすい解説

未熟児保育
みじゅくじほいく
care of the premature infant

概説

未熟児早産児は、成熟児・正期産児に比べて生活力が弱く、生後4週未満の新生児期に死亡する危険率が大であることから、その保育についてはとくに留意すべき点が多い。危急新生児に対するNICU(新生児集中治療室)が設けられ、未熟児にも積極的な医療が行われるようになった。未熟児の保育三大原則は、保温・栄養・感染防止であることに変わりはなく、検査や処置など児に加わるストレスは必要最小限にとどめるほか、監視を厳重にして異常症状の早期発見に努めることがたいせつである。

[仁志田博司]

保温

未熟児は体重に比して体表面積が大きいので、体温喪失がきわめて大きいのに体温保持に必要なエネルギーの産生が少ないため、低体温となりやすく、呼吸および循環に悪影響を及ぼす。しかし、保温は、単に低体温を防ぐ目的だけでなく、児が体温を保つために余分なエネルギーを使用しなくてよい温度環境に保つ意味もあり、それによって児の順調な発育が期待できる。一般的には、皮膚温を36.5℃に保つように環境温度を調整する。また、湿度は保温にも関係するので、40~60%以上に保つ。通常、新生児室温は25℃が最適である。

[仁志田博司]

栄養

早期授乳を目標とするが、無呼吸発作を繰り返したり胃内容が十二指腸へ容易に移行しないこともあって、授乳が困難な場合もある。しかし、未熟児だからといって飢餓時間を長くする必要はなく、状態が許せば生後6~12時間より経口哺乳(ほにゅう)を開始するが、母乳の直接授乳は通常、体重が2000~2500グラム以上の場合で、初回は蒸留水の投与がもっとも安全である。なお、在胎32週以前では嚥下(えんげ)反射が十分でないため、経腸栄養法を行い、出生体重1500グラム以下の児に対しては、単に栄養・水分の補給ばかりでなく、低血糖予防の目的からグルコース点滴を併用する。

[仁志田博司]

感染防止

未熟児は単に免疫機能が未熟なだけでなく、母体からの抗体免疫グロブリンG)が移行する前に出生するため、また、無菌状態で出生するため、感染に侵されやすいので、未熟児室は清潔区域であり、出入口は限定され、手洗いしてから入室し、常勤者および両親以外の出入りは最小限にとどめる。

[仁志田博司]

保育器

新生児とくに未熟児を入れて保育する医療器で、インキュベーターincubatorともいう。温度と湿度を至適環境に保つことを第一の目的としているが、そのほか酸素療法、観察、隔離、感染防止などの目的でも使われる。構造・用途から閉鎖式と開放式の二つがある。閉鎖式保育器は透明な合成樹脂製フードで外気と隔離する型式で、丸い小窓から手を入れて操作し、電気ヒーターで加温した空気の対流により保温する。開放式保育器はおもに分娩(ぶんべん)室や手術室用として使われ、保温は上部の赤外線輻射(ふくしゃ)熱による。また、各種モニター、人工呼吸器、光線治療器、輸液機器などを備えた集中看護用の保育器や搬送用として熱源にバッテリーを備えたものもある。

 なお、19世紀後半、フランスの医師ビュダンPierre Buddinが、パリ動物園のチンパンジーの赤ちゃんを保育する目的で使われていた、湯が循環する保育箱にヒントを得て、未熟児にも応用したところ、従来死亡していた未熟児が多数助かるようになり、世界最初の未熟児室をパリにつくった。したがって、保育器のことをクベース(保育器を意味するフランス語couveuseに由来)とよぶ場合もある。

[仁志田博司]

『神戸大学医学部小児科編『新版 未熟児新生児の管理』(2000・日本小児医事出版社)』『仁志田博司編著『未熟児看護の知識と実際』改訂3版(2003・メディカ出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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