本案は,付随的または派生的な事項に対して,主要または中心たる事項を表す語である。民事訴訟法上,その意味は使用される局面(場所)によって,いろいろに理解されている。たとえば訴訟判決(訴訟要件または上訴の要件が欠けているため,請求の当否について判断をせずに訴えまたは上訴をしりぞける判決)に対するものとして〈本案〉判決という言葉が使用されているが,この場合における本案は原告の請求(訴訟物)そのものを表し,したがってまた本案判決は訴えの適否ではなくて,その中身に相当する請求の当否に関する判決を意味する。また訴訟費用の裁判とか仮執行宣言に対して〈本案〉の裁判という語を用いる場合があるが(民事訴訟法67条2項,260条),この場合の本案は事件そのものを意味する。したがってこの場合における本案の裁判とは,事件に対する裁判という意味になる。さらに仮差押えおよび仮処分に対して,その被保全権利(請求)に対する判決手続を本案という場合がある(民事保全法1条など)。そのほかに上訴審において,上訴の適否にとどまらず,原判決の当否にまで立ち入っての審理・裁判を本案という場合もある(民事訴訟法338条3項)。
執筆者:納谷 廣美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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