一般的には、特定の者が相手方に対し一定の行為つまり作為または不作為を要求することをいい、請求を内容とする権利を請求権という。民法上では、履行の請求とか損害賠償の請求などのように一定の私法上の行為を要求する場合に用いられることが多い。民事訴訟法における請求は、「訴訟上の請求」として説明される。
[内田武吉・加藤哲夫]
訴訟上の請求とは、原告が訴えによってその当否につき裁判所の審理・判決を求める、被告との関係における具体的な法律的主張をいう。いいかえれば、それは原則として特定の権利または法律関係の存否の主張をさす。訴訟上の請求では、請求の内容として主張されるこの権利関係が審判の対象となるので、これを「訴訟の目的」あるいは「訴訟物」ともいう。原告の権利主張を訴訟上の請求とよぶのは、民法上の請求の語義を転用したものである。給付訴訟が唯一の訴訟類型であった時代には、権利主張は請求権の主張であり、訴訟は請求権行使の手段であった。ところが、19世紀後半になって確認訴訟や形成訴訟が認められるようになると、訴えによる権利主張が請求権の主張だけではなくなった。たとえば、原告が被告に対する債務の不存在を主張する消極的確認の訴えや、一定の離婚原因を主張して離婚の訴えを起こすことなどが認められるに及んで、これらを包含する概念として「請求」の意味が転化するに至った。訴訟上の請求が具体的にいかなる権利関係に関する主張であるかは、原告が訴状に記載する「請求の趣旨」および「請求の原因」によって定まる(民事訴訟法133条2項)。
[内田武吉・加藤哲夫]
請求の趣旨とは、訴えの結論として原告が何を求めているかを示すもので、たとえば、給付の訴えでは「被告は原告に対し金何万円を支払え、との判決を求める」というように請求認容の判決主文に対応する表示がされる。請求の原因とは、請求の趣旨と相まってこれを補足して請求が特定の権利主張であることを明確にするために必要な権利発生原因である事実をさす。たとえば、被告が原告に不法行為を行った事実がこれにあたる。前記の両者によって請求は特定される。裁判所は、この特定された請求の当否についてだけ審判することになる(民事訴訟法246条)。訴訟上の請求の当否についての裁判、つまり請求認容あるいは請求棄却を主文とする判決が本案判決であり、その既判力(きはんりょく)は訴訟物である権利関係について生ずるのが原則である(同法114条1項)。
[内田武吉・加藤哲夫]
請求の放棄とは、訴訟の口頭弁論または準備手続において、原告が自己の請求が理由のないことを自認する行為をいうのに対し、請求の認諾は、被告が原告の請求を理由があると認めることをいう。訴訟外で同じ内容の陳述をしても、それは権利の放棄あるいは債務の承認にあたるが、訴訟法上の効果は生じない。請求の放棄や認諾は、これを調書に記載することによって確定判決と同一の効力を生じる(民事訴訟法267条)。したがって、当該訴訟はこれによって終結する。つまり、放棄の場合は請求棄却の判決、認諾の場合は請求認容の判決があったと同様の結果になる。
[内田武吉・加藤哲夫]
私法上の請求と訴訟法上の請求の二つがある。
私法上の請求とは,請求権をさす。それは私人が相手方に対し,特定の給付を求めることができるという私法上の権利のことである。
それに対し,訴訟上の請求とは民事裁判上,訴えとして原告によりなされるもので,私法上の請求権とは区別される。それは請求権のみならず私法上の支配権,たとえば,所有権その他の私法上の地位などを,裁判所および相手方被告に対し主張するものである。その主張を権利主張というが,これには請求権・所有権など,その存在を主張するものと,そのような権利が相手方にはないという権利の不存在を主張する場合とがあり,その両者とも訴訟上の請求であって,その点でも私法上の請求,すなわち,請求権とはおおいにその内容を異にしている。このように,訴訟上の請求は内容においては私法上の権利と関係しながら権利そのものとは区別され,その存否の,訴訟における主張なのである。
訴訟上の請求は私法上の権利と関連して,訴訟における争いの内容や範囲を決定する。訴訟で争われるものを,訴訟の客体というが,権利存否の主張であるところの訴訟上の請求がそれにあたる。訴訟の客体は,訴訟対象または訴訟物ともいわれ,訴訟の単位となる。すなわち,訴訟上の請求が同じか異なるかで訴訟も互いに他の訴訟と区別される。このことから,訴訟物すなわち訴訟上の請求の範囲によって,同じ訴えの繰返しを禁じる既判力,二重訴訟,さらに訴訟の対象を変えたり,追加したりする訴えの変更になるかどうか,などが決められる。また,この訴訟物を金銭的に評価した価額を訴額といい,これは訴訟の手数料や審理すべき第一審裁判所を決める基準となる。
この訴訟物たる訴訟上の請求を訴訟で提示するのは原告である。原告は訴状で,〈請求の趣旨〉と〈請求の原因〉によってこれを特定する(民事訴訟法133条2項)。〈請求の趣旨〉とは,訴状の記載の中でどのような内容の判決を求めるかを明らかにする部分をいい,〈請求の原因〉とは,その理由となる権利の特定に役だつ部分をいう。
判決には,被告に一定の給付を命じる給付判決,所有権その他の法的地位の存否を確認する確認判決のほか,特別のものとして離婚判決のように法律関係の変動を目的とする形成判決がある。原告は,請求の趣旨と原因とによって,これらの判決の中のどれを求めているか,被告と対立する主張の内容となる権利は何かをまずはっきりさせることが必要である。そして求められている判決の種類によって,訴訟もそれぞれ給付訴訟,確認訴訟,形成訴訟とに分かれる。確認訴訟は,一般に権利の確認に限られ,事実の確認を含まないが,唯一の例外として証書真否確認の訴えがある。
これら三つの訴訟類型は訴訟上の請求により決められるが,これらの訴訟に共通する裁判の目的は,結局訴訟上の請求に対する当否の判断にある。この当否の判断は,内容のうえで,主張されている権利の存否が原告の主張どおりに承認されるべきかどうかという判断と,さらにその訴えをそもそもとりあげるべきか否かの判断とに分かれる。後者は,原告が被告を訴えることができるか否かのいわゆる訴権の問題である。この訴権は,同時にまた訴訟を許すか許さないかの条件である訴訟要件として論じられる。
民事訴訟は,原告,被告がお互いの主張・立証を争う口頭弁論に基づき,請求に対する裁判所の判決によって終了する場合もあるが,また原告と被告との意思の一致による〈訴訟上の和解〉によって終了する場合もある。ただ,いずれにせよ,これらの場合には原告と被告との間の私法上の権利・義務の関係が明確にされることによって訴訟は終了する。それはこの当事者間で権利・義務が明確にされることによって,双方の間の民事上の紛争も訴訟により解決されることになるからである。訴訟上の和解は,調書にとられることによって判決と同じ効力をもつが(民事訴訟法267条),これと同じことは,〈請求の認諾〉〈請求の放棄〉についてもいえる。〈請求の認諾〉とは,訴訟で被告が原告の訴訟上の請求を全面的に承認することであり,〈請求の放棄〉とは,逆に原告がみずからの請求に理由がないことを認め,相手方被告の反対主張を全面的に受け入れることである。これらによって作られる調書もまたそれによって訴訟は終了し,明確にされた双方の間の権利について判決と同じ効力が与えられる(同条)。
執筆者:坂口 裕英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…前者は特定の権利または法律関係に関する自己の認識または判断を報告する陳述をいう。とくに訴訟物に関する原告の主張は請求といわれる。後者は法律上の主張を基礎づける具体的な事実を裁判所に報告する陳述をいう。…
※「請求」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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