改訂新版 世界大百科事典 「仮執行宣言」の意味・わかりやすい解説
仮執行宣言 (かりしっこうせんげん)
財産権上の請求に関するいまだ確定していない判決や支払督促に基づく強制執行を許すための制度。強制執行は,判決などが確定してはじめて許されるのが,本来の原則であるが(民事執行法22条1号),その原則のみでは,当事者の利益保護に欠けるところがある。たとえば,貸金返還請求訴訟の第一審で原告Aが勝訴判決を得たのに対して,被告Bが控訴あるいは上告をすると,上告が棄却されるまで第一審判決は確定せず,Aは,その間強制執行をすることができない。他方,Aの主張する請求権が存在することは,第一審判決によって一応確かめられている。そこで,第一審裁判所が,仮執行宣言付判決をすることによって,上記のような,確定していない第一審判決に基づく強制執行が可能とされる。
もちろん,当該判決が上級審で取り消される可能性はあり,現実に取消し,あるいは変更がなされれば,その限りで仮執行宣言は効力を失うから,強制執行の結果として得られたものは,相手方に返還されなければならない(民事訴訟法260条2項)。〈仮〉執行たるゆえんである。
仮執行宣言は,以上に述べたように,未確定判決における勝訴者の利益を保護しようという目的を持つが,他方,相手方の利益が不当に侵害されないよう,法は種々の対策を講じている。まず,仮執行宣言を付するについて裁判所は,判決確定前の執行が,勝訴者にとって必要であるかどうかを判断しなければならない(259条1項)。ただし,手形・小切手判決の場合には,迅速性の要請を優先させて,常に仮執行宣言を付することとしている(同条2項)。
勝訴者と相手方との利益を調和させるもう一つの手段は,担保の提供である。まず,仮執行宣言をする際に,勝訴者が担保を提供することを宣言の条件とすることができる(同条1項,2項)。不当な仮執行によって相手方に生じる損害をこの担保によって回復させようという趣旨である。逆に,相手方についても,担保を提供させて仮執行を免れる道が残されている。この制度を仮執行免脱宣言と呼ぶ(同条3項)。そのほか,勝訴者と相手方との利益調整の手段として,勝訴者の無過失損害賠償責任がある(260条2項)。仮執行宣言付判決が上級審で取り消された場合には,単に執行によって得たものを相手方に返還するだけではなく,勝訴者は,執行によって相手方に生じた損害について無過失責任を負う。
仮執行宣言は,手形・小切手判決および少額訴訟判決について例外なく付けられる(259条2項,376条1項)ほか,通常の判決についても付されることが多い。とくに,金銭給付判決については,原則として付されるといっても過言ではない。また,判決以外にも,督促手続における仮執行宣言付支払督促として重要な役割を果たしている。
執筆者:伊藤 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報