翻訳|Main Street
アメリカの小説家シンクレア・ルイスの出世作。1920年出版。作者の故郷をモデルにした中西部の田舎町の因襲が戯画的に描かれている。中心人物は,平凡な町医者と結婚したよそ者のインテリ女性キャロル。住民の中で彼女の理解者は学校の女教師など数名にすぎず,彼らを足がかりに町の改革に乗り出したものの,すぐに挫折する。女教師も結婚するとたちまち平凡な主婦になってしまう。町の教化のために計画した素人芝居もみごとに失敗するし,年下の美青年との恋愛遊戯も夫に軽くたしなめられて幕となる。彼女が試みた〈反逆〉が結局線香花火に終わるのは,作者が町の住民をひそかに愛しているためで,ついには町に同化するキャロルも町と同様風刺の対象となっている。〈この本町通りはどこの町の本町通りにも通じている〉という,アメリカ社会の画一性を攻撃したこの作品が,たちまち多くの読者を得たのは,アメリカに対する作者の愛憎が喜劇的に書かれているためであった。
執筆者:斎藤 光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカの作家、H・S・ルイスの長編小説。1920年刊。大学出のインテリ女性キャロルは、アメリカ中西部の架空の田舎(いなか)町ゴーファー・プレアリィの町医者ケニコットの妻となり、町の文化改革に乗り出し、芝居の上演などを試みる。住民の視野の狭さと独善ぶりを批判する彼女は、逆に軽佻浮薄(けいちょうふはく)な都会ぶりを住民たちから批判される。一時、夫と別居して町を離れるが、改革者に徹することもできず、結局、夫と和解して田舎町の生活に甘んじる。この作品は、都会生活の経験から作者の郷里に対する反発と愛着こもごもの心情が創作のエネルギーとなっており、当時のアメリカ人が反省を迫られたアメリカ文化の立ち後れを揶揄(やゆ)する問題作として、アメリカ文学史上、類をみないほどの反響を呼び起こした。
[齊藤忠利]
『齊藤忠利訳『本町通り』全3冊(岩波文庫)』
…これは作者の屈折した性格の一面である劣等感が,主人公のゆがんだ小市民性に表現された佳作である。彼の全盛時代は《本町通り》(1920)から《ドッズワース》(1929)までの10年であり,代表作はすべてこの時期に書かれ,いずれもベストセラーになった。そしてベストセラー作家というレッテルが彼に劣等感を与えた。…
※「本町通り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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