日本大百科全書(ニッポニカ) 「村落社会」の意味・わかりやすい解説
村落社会
そんらくしゃかい
都市と村落は地域社会の二つの類型とされるが、都市に対して、主として自営小家族経営を営み、農業、林業、漁業などの第一次産業に従事する世帯によって、比較的小規模な集落として構成されているのが村落である。村落はそれを構成する世帯の従事するおもな産業によって、農村(農業村落)、山村(林業村落)、漁村(漁業村落)に分類されるほか、立地条件によって、開発の時期によって、住居の集散する形態によって、その他さまざまの要因によって、多くの種類に分類することができる。
[蓮見音彦]
特質と機能
このような種類に応じて村落社会の特質にも差異がみられ、村落社会一般に共通する特質はかならずしも多くないが、村落が第一次産業に従事する小経営家族によって構成されているという基本的な性格が村落社会の特質を規定している。すなわち、村落社会においては、その結合の契機は、村落を構成する世帯の消費生活上の必要を満たすことだけでなしに、多かれ少なかれ、生産活動を進めてゆくうえでの相互協力を含むものとなる。比較的少数の世帯が地域的に一つのまとまりをなして、長期間居住し、生産と消費の両面にわたる契機で協力しあうことから、村落社会は、都市社会と比べて、はるかに緊密な社会的連帯としてつくりあげられる。そこでは、さまざまな慣行が生み出され伝承されるとともに、村落内の人々の行動や関係などを規制する規範なども自らつくりあげられる。また、村落は多くの機能を果たすが、自生的な機能だけでなしに、国や地方自治体の行政の補完の役割を果たし、行政の実施を円滑にする効果をあげている。多くの機能を果たしてゆくために村落社会では、住民から比較的多額の会費を徴収したり、資産をもったりするとともに、運営のためにも確立した政治的支配機構をもつ場合が多い。これらの特質は、しばしば村落社会が封建的な性格を残している根拠とされるが、逆に、自らの地域の課題を積極的に改善してゆこうとするコミュニティ的性格の表れとして評価される場合もある。
日本の村落社会は、第二次世界大戦後まで零細な自営小家族経営が滞留していたことから、村落共同体的な特質がみられ、封建的な遺制をとどめているといわれてきた。その後、経済の高度成長が進み、都市化と人口移動が進んで、村落社会は大きく変容を遂げたが、零細経営の第一次産業が、資本制社会において工業と均衡して発展することが困難なことから、後継者問題、高齢化問題など深刻な社会問題を抱えている。
[蓮見音彦]
『川越淳二・後藤和夫編著『村落』(1970・川島書店)』▽『益田庄三編『村落社会の変動と病理』(1979・垣内出版)』▽『松尾幹之著『村落社会の展開構造』(1983・御茶の水書房)』▽『福武直著『日本の農村』(1971・東京大学出版会)』