杭上住居(読み)こうじょうじゅうきょ(その他表記)pile dwelling

改訂新版 世界大百科事典 「杭上住居」の意味・わかりやすい解説

杭上住居 (こうじょうじゅうきょ)
pile dwelling

杭上家屋ともいう。建物が地上から離れて柱の上に載っている住居をさす。一般に高床住居と呼ばれるもので,陸上に限らず河岸,海岸,湖岸など水中に杭を立て水上家屋もある。杭上住居の顕著な分布地域は東南アジア(ただしベトナムやインドシナ半島山地,ジャワ中・東部および華僑の家を除く)からメラネシアの一部である。杭の高さは1.2~2m程度のものが多い。日本の住居は半高床式であるが,広義には高床住居に含まれる。

 杭上住居には脚柱が床を貫いて桁まで達しているものと,脚柱は床までで床上は別の構造になっている二つの形態がある。杭上住居は地上の湿潤な気候条件,乾季の暑熱を切り離し,床下通風を考え,害獣虫の防止,定期的な洪水からの安全性など多くの特性がある。床下は家畜小屋,仕事場農具の収納用地として利用するところもある。杭上住居は倉を含めるとシベリアや北米北西部,南米,西アフリカ海岸部にも見られる。
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1853-54年,スイスチューリヒ湖の水面が異常に下がったことから,湖底に無数の杭が立って残り,周囲に莫大な量の新石器時代の土器,石器,木製品などが散乱している状況が見いだされたことを契機として,アルプスを中心とするスイス,ドイツ北イタリアで,続々同種の集落遺跡が見いだされた。研究の当初は,湖水面上に家が立ち並んだものと理解されており,日本でもlake dwellingを訳した湖上住居の名が普及した。しかし,現在では湖畔に杭を立てその上に家を設けたとする説が最も有力であって湖上住居と呼ぶことが不適当となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杭上住居」の意味・わかりやすい解説

杭上住居
こうじょうじゅうきょ

湖岸や海岸の水辺や湿地に丸太を多数打ち込んで、その上に横木を並べて土台として設営した住居様式。生業、交通の便のほか、湿気や害獣・害虫、敵などの侵入を防ぐ機能をもつと考えられる。民族学的な例としては、現在でも東南アジアなどにみられる。

 考古学的にはスイス、ドイツの湖沼地帯に発見されるいわゆる湖上住居や、イタリアのテラマーレ文化の杭上住居が有名である。スイスの湖上住居では、新石器時代から青銅器時代にわたって営まれたヌーシャテル湖岸のコルテヨ遺跡などが知られている。この遺跡は、土着の中石器文化が、紀元前3000年ごろフランスのシャセイ文化から農耕技術を取り入れて成立したコルテヨ文化に属する。発掘によって麦類、豆類、リンゴなどの栽培が知られ、また、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの家畜を飼うかたわら、湖での網漁、銛(もり)漁、陸上での弓矢や骨槍(やり)を用いたシカ、イノシシ猟など伝統的な狩猟、漁労活動も行った。とくに後期になるとふたたび狩猟漁労の比重が大きくなった。ドイツのフェーダー湖岸のアイヒビュール遺跡は、コルテヨ文化と同時期のものである。24軒の杭上住居が発見され、住居は、1辺5~6メートルの方形の切妻屋根の丸太小屋で、屋内は2室に分かれていた。テラマーレ文化の杭上住居は、北イタリア、ポー川沿岸の低湿地に分布する。集落の周囲に柵(さく)と濠(ほり)を巡らし、その中に居住した。この文化は青銅器時代に属する。

[前田 潮]

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百科事典マイペディア 「杭上住居」の意味・わかりやすい解説

杭上住居【こうじょうじゅうきょ】

杭上家屋,高床式住居とも。数本の柱を立て,その上に床を造った住居。浅い海辺とか河中のほか,陸上に建てられることもある。東南アジアに特に多く,雨季には洪水や湿気を防ぎ,乾季には暑熱を避ける。また外敵や害獣・害虫を防ぐのにも役立つ。また,寒冷な地域では凍土の融解により建物が傾くのを防ぐため,同じような構造の住居を設ける例もある。→湖上住居
→関連項目ハルマヘラ[島]

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世界大百科事典(旧版)内の杭上住居の言及

【住居】より

…一つは通風に頼るもので開放的なつくりとなる。東南アジアに広く分布する高床住居(杭上住居)は,湿気の高い地表面から床面を離し,床下からの通風が耐暑の役割を果たす。しばしば竹床が用いられ,すきまをあけて張るようにされている。…

※「杭上住居」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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