東京佐川急便事件(読み)とうきょうさがわきゅうびんじけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「東京佐川急便事件」の意味・わかりやすい解説

東京佐川急便事件
とうきょうさがわきゅうびんじけん

渡辺広康(ひろやす)(1934―2004)元東京佐川急便社長らによる特別背任事件。東京佐川急便の旧経営陣らによる暴力団系企業への巨額債務保証や政治家への巨額献金が明るみに出て、東京地検は1992年(平成4)2月、渡辺元社長ら4人を逮捕、強制捜査に乗り出した。起訴された特別背任の総額は「平和堂ルート」「市原観光開発ルート」「暴力団ルート」の3ルートをあわせ952億円に達し、1991年の中堅商社をめぐるイトマン事件をしのぐ戦後最大規模の特別背任事件になった。同年9月には金丸信(かねまるしん)(1914―1996)元自由民主党副総裁と、金子清(きよし)(1932― )元新潟県知事が政治資金規正法違反で立件され、金丸罰金20万円が確定した。国会議員が同法違反で有罪となったのは初めてであったが、5億円の献金受領で罰金がわずか20万円であったのに加え、事情聴取しないまま、略式起訴したことに対して「不平等だ」として国民から強い不満が出た。このため、5億円の配分先とされる国会議員約60人に対する政治資金規正法違反の告発も相次ぎ、東京地検は再捜査を行った。同年12月、この件については氏名不詳のまま嫌疑不十分で不起訴処分としたが、1993年3月、同事件の捜査の過程で発覚した多額の脱税容疑で金丸を逮捕した。

[橋本五郎]

暴力団関与の疑念

一方、検察側は1992年9月の初公判の冒頭陳述で、渡辺被告が石井進(すすむ)(1924―1991)稲川会元会長へ巨額の債務保証を行った背景には、1987年(昭和62)の竹下登政権誕生時に起きた「皇民党事件」があったことを明らかにした。右翼の皇民党による竹下への「ほめ殺し」とよばれる嫌がらせに対し、金丸が苦慮していたため、渡辺被告が石井前会長に解決を依頼し、その借りがあったというものである。皇民党事件は政権誕生に暴力団が関与したとして、金丸の献金問題とともに、国会での証人喚問の大きな焦点になったが、竹下は一貫して関与を否定した。

[橋本五郎]

自民党分裂へ

東京佐川急便事件は、特別背任の規模として類例をみないものであったが、政界に与えた影響という点でも、ロッキード事件やリクルート事件に匹敵、あるいはそれ以上に大きいものであった。5億円献金が発覚し、金丸は自民党副総裁を辞任、続いて竹下派の会長も辞めた。竹下派はこれによって急速に求心力を失って、長い間続いてきた「田中支配」「竹下派支配」が終わりを告げるとともに、この事件への対応をきっかけに小沢一郎グループと反小沢グループが真っ向から対立、やがて竹下派の分裂→羽田(はた)・小沢らによる自民党離党→新党結成、さらには細川連立政権誕生という政治変動を引き起こした。

[橋本五郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「東京佐川急便事件」の意味・わかりやすい解説

東京佐川急便事件
とうきょうさがわきゅうびんじけん

東京佐川急便からの巨額の資金流出に端を発する事件。運送大手の佐川急便グループの中核会社である東京佐川急便の旧経営陣が,指定暴力団稲川会系企業や医療機器販売会社平和堂グループなどに対し,総額約 5200億円にものぼる多額の融資や債務保証をし,その大半が回収不能となった。東京地検は 1992年2月,渡辺広康元社長ら5人を特別背任罪で起訴し,渡辺元社長から県知事選資金を提供された前新潟県知事金子清ら3人を政治資金規正法違反罪で起訴した。また,渡辺元社長から5億円のヤミ献金を受け取った前自民党副総裁金丸信は政治資金規正法違反罪で略式起訴され 20万円の罰金刑を受けたが,93年3月には所得税法違反罪で逮捕,起訴された。

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