改訂新版 世界大百科事典 「染み抜き」の意味・わかりやすい解説
染み抜き (しみぬき)
衣服などの繊維製品,住宅の壁,天井,畳,床材などに生じた汚点,付着した異物を除去する家政学的技術をいう。とくに衣服,テーブルクロス,クロス状の壁紙,カーペットなどは,衣食住のなかで,食料品,化粧品,薬品,文具類,カビ,分泌物などにより汚れやすい。部分的に付着した衣服類の汚点は全体を洗濯することなく除去することが望ましいし,また一般の洗濯では除去できず部分的に染み抜きの技術を使用すべき場合もある。生活程度の向上した近年では,家政学的技術の染み抜きを家庭内で行うより,洗濯会社の専門的技術に依頼することが多くなった。とくに合成繊維の種類が増加し混紡製品が増えた昨今では,染み抜きを行うべき繊維の材質を一般家庭で識別することは非常に困難であり,材質の正確な知識なしに素人処理をすることは,結果において染み抜きの仕上りを悪くする危険があるので注意を要する。したがって,染み抜きを家庭で行う際は,製品そのものの経済的価値を考慮したうえで,地質の種類,汚点の種類と性質,地質に使用されている染料や顔料の性質,付着してからの時間などを十分確かめたうえで家政学的処理を行うべきである。とくにカビの発生により生じた汚点は時間の経過により急速に増加することがあるので注意を要する。
原理
染み抜きには,水,有機溶媒に対する溶解現象を利用する物理的な方法,および酸化・還元などによって汚点を分解する化学的な方法があり,場合に応じて使い分ける。物理的な方法は汚点物質の極性が問題で,極性の高い物質は水,アルコールなどの極性溶媒に溶けやすく,極性の低い物質はベンジン,灯油,トリクレンなどの非極性溶媒に溶解しやすい。また溶解現象は温度が高いと促進されるし,水による染み抜きの場合,水に溶解ないし分散を助ける意味で各種の洗剤,界面活性剤の併用が有効である。アンモニア水,希酢酸などがしばしば染み抜きに用いられるのは,物質によっては中性の水より希アルカリ性または希酸性の水に溶解しやすいことを利用する一種の物理的方法といえなくもない。これに対し化学的な染み抜きは,物理的染み抜きが不成功の際に初めて試みるべきもので,シュウ酸,ハイドロサルファイトなどの還元剤,次亜塩素酸ナトリウム,さらし粉などの酸化剤で汚点物質を分解する。これらの薬品は漂白剤でもあり,地質の染料を漂白してしまうこともあるので注意を要する。一般に染料にはアゾ化合物,トリフェニルメタン類などの酸化還元に対しきわめて弱い構造のものもあれば,アントラキノン系のようにこれらに堅牢な染料もある。やむを得ず地質の染料を漂白した場合は,あらためてその部分を補染することもある。
方法
まず汚点の種類が水溶性であるか油溶性かを判断する。水を噴霧して溶解して色濃くにじんだり浮き上がってくれば水溶性であり,水ではまったく変化せず微量のベンジンで色がにじんだり浮き上がるものは油溶性である。染み抜き剤がきまったら,白い木綿布を用意し汚点の裏表に十分あてがい,染み抜き剤で溶け出した物質を吸収する。染み抜き剤をブラシを用いて供給する場合,ブラシでこするのではなく裏面より汚点をたたき出して添布に吸収させる。染み抜き剤の付け方として周囲より中心に向かって処理し,できるだけ汚点を広げないようにして吸いとる必要がある。また溶解した汚点を布の他の場所に付着することのないよう注意がたいせつである。染み抜き剤の種類と汚点の関係を表に示す。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報