放射性同位体(ラジオアイソトープ,RIと略称)を用いて,病気の診断,治療,および疾病の研究を行う医学の一分野。RIの取扱いについて日本では,諸外国に比べ厳しい法的規制がなされているが,1970年代以降のコンピューター技術,放射線計測技術の急速な進歩に伴い核医学の分野も飛躍的な発展を遂げている。核医学診断は,RIのトレーサーとしての利用技術といえるが,大別して,in vivo法(インビボ法,体内計測法)とin vitro法(インビトロ法。〈試験管内の状態〉の意)の2種類がある。前者のin vivo法は,RIを患者に投与して体内から出る放射線を検出し,そのRIの体内分布状態や変化量を画像やグラフ上に表現する検査法である。この方法では,患者の形態的・機能的観察が非観血的(出血を伴わない方法)になされる。体内からの放射線を外から検出する点で,体外からX線を照射して,その透過像を検査するX線検査とは異なる。RI画像を得る装置として,シンチスキャナー,ガンマカメラ,核医学データ処理装置等が用いられており,患者の放射線被曝の軽減と診断能の向上に寄与している。
後者のin vitro法は,患者より得た試料(血清,尿など)にRIを加えて,試料中の微量物質を定量的に測定する検査法であり,患者の放射線被曝は皆無である。この試料の測定には,主としてウェル型(井戸型)シンチレーション検出器が用いられ,試験管内試料の測定効率を高めている。in vitro検査法は,従来の化学定量法や生物学的測定法などでは不可能であった生体内物質のごく微量の定量が行えるという点に特徴があり,1959年バーソンS.A.Berson,ヤローR.Yallowによる血中インシュリンの放射線免疫学的測定法(ラジオイムノアッセー,RIAと略称)に端を発している。その後多くの測定法が開発され,内分泌学やウイルス性疾患,癌関連の検査に応用されている。
核医学の分野における治療には,甲状腺の機能亢進症や,癌に対するものなどがあり,通常,RIを体内に投与して治療がなされる。
これら核医学の分野において用いられるRIは,とくに〈放射性医薬品〉として一般のRIと区別されており,次のような特徴を有する。(1)放射性核種であり通常,γ線放出核種が多い,(2)放射能の減衰という性質のため,有効期限がある,(3)一般に薬理作用をもたない,(4)臓器等の診断に用いる場合は対象臓器に集積される臓器親和性を有する,(5)トレーサーとしての性質を有する,(6)被曝線量が少ない,(7)適当な比放射能を有する,(8)放射線障害防止上,購入,使用,貯蔵,廃棄等の厳重な記録および管理がなされる,ことなどである。
核医学はRIをトレーサーとして利用することから始まっている。1913年ノーベル化学賞受賞者でもあるG.vonヘベシーは,キュリー夫妻によって発見されたラジウムD(210Pb)を用いて鉛の追跡実験をしている。さらに27年にはRIが人体に対して応用され,ラジウムC(214Bi)を用いて一方の腕から反対の腕までの血流時間が体外から測定された。その後30年代後半からサイクロトロンによって製造されたナトリウム24 24Naやリン32 32Pなどの人工RIが供給されるようになり,治療,診断に利用された。50年代には原子炉で種々の人工RIが生産可能となり,核医学は急速に発展をした。なかでもヨウ素131 131Iは甲状腺機能の測定や甲状腺癌の治療に多く用いられたが,半減期が8日と比較的長く,β線を含むなどの理由により現在では,60年代半ばに発表されたテクネチウム99m 99mTc(半減期6時間,no-β)へと移行している。またin vitro検査においてはヨウ素125 125Iが多用されている。さらに70年代後半には患者の医療被曝軽減や機能診断という見地などから病院内に小型サイクロトロンを設置し,超短半減期RIである炭素1111C(20分),窒素1313N(10分),酸素1515O(2分),フッ素1818F(110分)などを利用して,生体の形態,機能,生理作用などを画像化する方法が開発された。
執筆者:金場 敏憲+蜂屋 順一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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