私たちの目は可視域の光だけに感ずることができる。というより,感ずることのできる光の波長領域を可視域と定義しているというのが正しい。そして可視域内の光でも波長によって感ずる度合が異なり,700nmや400nmの光では相当強いエネルギーでも明るいと感じないし,550nmくらいの光では少しのエネルギーであっても明るいと感ずる。そこで光に対する視感覚の分光感度を考えることになるが,その分光感度を視感度といい,さらにその視感度のピーク値を1に正規化したものを比視感度と呼んでいる。
比視感度は光の視覚系にとっての強さを定める際にたいへん有効なものとなる。例えばある光の分光エネルギーがLeλであると,比視感度をV(λ)とすれば,この光の目にとっての強さは,LeλにV(λ)を掛け波長で積分した量で表されることになる。このように有用な関数であるので多くの人のV(λ)の平均的な値,あるいは標準値のようなものがあると便利である。国際照明委員会(CIE)が定めたその標準値が標準比視感度で,V(λ)の記号で表している。その形状は図に示すごとくで555nmにピークをもつスムースなベル状をしている。簡単にいえばこれが目の分光感度である。
このような比視感度の特性は網膜にある錐体の性質によって定まってくるものである。ところが網膜には暗い視環境で初めて機能する桿体という細胞もあるので,周囲が暗くなると視感度は桿体のそれになってしまう。それがV′(λ)で表されるもので,これも図に示してある。ピーク波長は505nm近辺である。前のV(λ)の性質は視覚系の明るいところでのものなので,これを明所視における標準比視感度と呼び,いま導入したV′(λ)を暗所視における標準比視感度と呼ぶ。ともに国際標準関数として確立されている。
ところで人間の目の性質は錐体の明所視から桿体の暗所視へ突然変化するのではなく,中間に錐体,桿体の両者がともに機能する状態がある。いわゆる薄明視と呼ばれるもので,このときの比視感度はV(λ)とV′(λ)の中間の形状となる。しかしその形状は一定でなく,周囲の明るさによって連続的に変化する。このため標準化はむずかしく国際標準も確立されていない。
標準比視感度関数V(λ)やV′(λ)は多くの人たちから得た実験データを基に導き出したもので,ある特定の人物の値ではない。しかし,人間の特性を表すものであることには違いない。そこで架空的な1人の人間を考え,その人の性質としてのV(λ)やV′(λ)を考えるほうが話としては便利である。ほかにも等色関数x(λ),ý(λ),z(λ)などの特性も定められており,これらも上記の架空人物の性質として考え,かつ関数間の整合性が保たれると何かと便利である。国際照明委員会ではこのような架空の人物を標準観測者と名付けて活用している。したがって標準観測者の明所視における比視感度がV(λ)であると表現できる。今後も人間の視覚の特性が明らかにされ,測定され,その平均的なものがこの標準観測者の新たな特性として加えられていくはずである。
執筆者:池田 光男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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