歌謡、音曲、小説、戯曲などに扱われた姦通(かんつう)事件の人物。実説は未詳だが、歌祭文(うたざいもん)によると、おせんは大坂天満(てんま)の樽屋久兵衛の妻で、夫の留守中、麹屋長右衛門(こうじやちょうえもん)に言い寄られ、子供に匕首(あいくち)を突きつけて迫られたため従おうとしたとき、夫が帰ってきたので言い訳がたたず、自害して果てたという。井原西鶴(さいかく)の『好色五人女』(1686)中の「情(なさけ)を入れし樽屋物語」によると、1685年(貞享2)1月22日の事件で、長右衛門はおせんの主人で、長右衛門の妻から無実の疑いをかけられたため、意地によって姦通に至ったとしてある。半太夫節(はんだゆうぶし)、豊後(ぶんご)節などに扱われたほか、歌舞伎(かぶき)では近松徳叟(とくそう)作の『名作切籠曙(めいさくきりこのあけぼの)』で人名だけを借りて脚色されたぐらいだったが、明治以後は西鶴作品に添って扱われるようになり、真山青果(せいか)、大森痴雪(ちせつ)にそれぞれ『樽屋おせん』という戯曲がある。
[松井俊諭]
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