橈骨遠位部骨折(読み)とうこつえんいぶこっせつ(英語表記)Distal radius fracture

六訂版 家庭医学大全科 「橈骨遠位部骨折」の解説

橈骨遠位部骨折
とうこつえんいぶこっせつ
Distal radial fracture
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな外傷か

 転倒して手のひらをついた時に手首に発生し、小児骨折では最も頻度が高いものです。小児の手首には、骨の長さが伸びる成長軟骨板があります。この軟骨にかかる骨折を骨端離開(こつたんりかい)といいます。

見落としやすい外傷と合併損傷

 不全骨折(いわゆる「ひび」)では痛みやはれが軽く、X線写真をとらないとわかりません。橈骨尺骨(しゃっこつ)という前腕の2本の骨が手首でつくる遠位橈尺(とうしゃく)関節脱臼していることがあります。見落とすと手のひらを上へ向けたり下へ向けたりする前腕の回旋運動が障害されます。

 成長軟骨板に骨折がかかると、骨の長さが伸びる長軸成長が早期に終了して、将来手首に変形が生じることがあります。

症状の現れ方

 手首のはれ、痛み、皮下出血が現れます。完全骨折でずれが大きい場合は、変形や異常な動きがみられます。

検査と診断

 X線検査は骨折の部位や骨折型、脱臼の合併を確定するために必要です。はれ、痛み、圧痛、変形など局所の症状とX線写真で診断は容易です。

治療の方法

 完全骨折でずれが大きい場合は、ほとんどが手指側の末梢骨片が前腕側の中枢骨片の手の甲側に乗り上げて短縮しています。徒手整復を行ってずれを治します。整復できれば上腕から手までのギプス固定をします。不全骨折でも、末梢骨片が手の甲側に曲がっている時は徒手整復が必要です。

 どちらの場合でもギプスのなかで再び元の状態にずれがもどってしまうことがあります。この時は再度同様の処置を行うか、整復した状態で鋼線を挿入して骨折部を固定します。

 成長軟骨板に骨折がかかる骨端離開では、ずれの整復を何回も行うと、将来的に成長障害を起こす危険性が高くなります。徒手整復が困難な場合は手術を行います。

応急処置はどうするか

 上腕から手まで、肘を90度にして副木固定を行います。厚めの段ボール紙で代用できます。

関連項目

 骨・関節の外傷総論

鈴木 克侍

橈骨遠位部骨折
とうこつえんいぶこっせつ
Distal radius fracture
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな外傷か

 高齢者が転倒して手をついた時に起こる手首の骨折です。頻度の高い骨折で「コーレス骨折」とも呼ばれます。肘と手首の間には2本の骨があり、親指側の太いほうの骨(橈骨)の手首に近い部分の骨折で(図12)、細いほうの骨(尺骨)の一部も骨折を伴うことがあります。

合併症はどんなものか

 骨折部の近くに神経が走っているため、指先がしびれることがあります。

症状の現れ方

 受傷直後から手首付近のはれと痛みが出現し、動かせません。また、手首付近が手の甲のほうに盛り上がった変形がみられることもあります。

検査と診断

 手首のX線写真をとります。変形の程度を確認するため3~4枚必要なことがあります。手首の関節まで骨折が及んでいる場合には、より詳細な診断が必要でCT撮影を行います。

治療の方法

 この骨折の多くは外来で治療します。ギプスを手から腕まで巻いて、4~5週間固定すると骨はつきます。もし骨折部の変形が強ければ、手を引っ張って変形を矯正します(徒手矯正(としゅきょうせい))。骨折部をギプスで固定すると指の関節が硬くなるので、ギプス固定をしている時期から手指をよく動かすことが大切です。

 定期的にX線検査をして、骨折部のずれに変化がないか確認します。ギプスを除去したあと一時的に手首の関節が硬くなるので、リハビリテーションをすることもあります。

 骨折部のずれが大きくて徒手矯正しても、元にもどらなかったり、もどっても不安定な場合には、手術をして骨折部を固定します。また、骨折が手首の関節面に到達してずれている場合にも手術が必要となります。

 どの治療をしても、一度手指の関節が硬くなると回復するまでに時間がかかるので、治療中から積極的に指の運動をして予防することが大切です。

応急処置はどうするか

 手首に板をあてて固定すると痛みは楽になります。また氷水などで患部を冷やすと痛みは楽になります(図13)。すぐに整形外科を受診してください。

後藤 英司


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報