俳諧の宗匠家では,正月の慣習として側近の連衆(れんじゆ)と歳旦の〈三つ物〉をよみ,これに知友・門下の歳旦,歳暮(年始,年末の意)の発句(ほつく)を〈引付(ひきつけ)〉として添え,刷物にして配った。その刷物の数丁に及ぶものをいう。また,各宗匠の刷物を版元で合綴した〈三つ物揃〉をもいう。人々はこれを〈三つ物所〉の店頭,または街頭の〈三つ物売〉から買い求め,各宗匠の勢力の消長と作句の傾向や技量を評判しあった。歳旦吟の習慣は漢詩人に始まるが,歳旦三つ物は連歌では紹巴,俳諧では貞徳に始まり,発句の主を順送りにして3組重ねる形式が普通。歳旦帳の刊行は俳壇で寛文年間(1661-73)に始まり,俳諧から漢詩に転じた惟中によって元禄(1688-1704)初年に漢詩でも試みられ,その習慣が詩壇にも移った。俳諧の歳旦帳は初め横本で丁数も少ないが,しだいに丁数や趣向を競い,元禄以降は中本・半紙本のものも出現し,〈初懐紙(はつがいし)〉〈春興帖〉などと称して,様式も異なってくる。
執筆者:白石 悌三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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