母と子のための制度(読み)ははとこのためのせいど

家庭医学館 「母と子のための制度」の解説

ははとこのためのせいど【母と子のための制度】

◎知っておくと役立つ制度
 厚労省の資料および法律関係の資料を参考にすると、母と子のための制度には、つぎのようなものがあります。
●母体保護法
●母子保健法
●労働基準法
●雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)
●育児休業等に関する法律
●おもな母子医療の公費負担制度
●分娩費、配偶者分娩費および育児手当金
●児童手当制度

●母体保護法
 優生保護法が1996年(平成8)9月に改訂され、「母体保護法」という新しい名称になりました。それにともない、優生保護法指定医師という名前は、現在、母体保護法指定医師という名称に改められています。
 不妊手術 妊娠または分娩(ぶんべん)が、母体の生命に危険をおよぼすおそれがあるもの、現在数人の子があり、かつ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下するおそれがあるものは、未成年を除き、本人の同意および配偶者があるときはその同意を得て、不妊手術を行なうことができます(第三条)。
 人工妊娠中絶 妊娠の継続または分娩が、身体的または経済的理由により、母体の健康を著しく害するおそれのあるもの、暴行もしくは脅迫によって、または抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫(かんいん)されて妊娠したものに対して、本人および配偶者の同意を得て、指定医師は人工妊娠中絶を行なうことができることになっています(第十四条)。
 人工妊娠中絶とは、胎児(たいじ)が生存不可能な時期に、胎児および附属物を子宮外に取り出す手術のことです。中絶可能な時期は、小児科の医療水準向上にともなって短縮され、現在妊娠22週未満となっています。
 近年、不妊症治療により多胎妊娠(たたいにんしん)(「多胎妊娠とは」)が増加し、減数(げんすう)手術が話題となっています。減数手術は問題ないと考える専門家もいますが、一部の胎児を死に至らしめる方法に医学的安全性が確立していないこと、また、生命の選択をすることが問題点とされています。
 体外受精時に、子宮内にもどす受精卵をなるべく多くして、妊娠率を上げる試みがなされ、その結果、多胎妊娠が多発しました。
 これに対して、もしかりに三胎(さんたい)(三つご)となっても、母児に対しての危険性は、四胎(したい)(四つご)に比べてはるかに少ないので、子宮内にもどす受精卵を3個以内とし、減数手術をしなくてすむようにしようという学会の意見があります。

●母子保健法
 妊娠した人は、妊娠の届出をすることになっており(十五条)、これに対して母子健康手帳(ぼしけんこうてちょう)が交付されます(十六条)。
 さらに、妊娠・出産・育児に関する必要な保健指導は、一般には保健所で行なわれますが、保健所から遠い地域にあるなど、保健所での指導を受けることが困難な場合には、医療機関に委託して行なわれます(十条)。
 妊産婦、新生児、未熟児に対しては、必要に応じて、医師、助産師、保健師が家庭訪問をして保健指導を行ないます(十一条、十七条、十九条)。
 母子保健法上では、生後28日までの赤ちゃんを新生児と呼びます(六条)が、それを過ぎてもひき続き指導を必要とする場合や、未熟児が正常児としての諸機能を得るに至った場合には、継続して訪問指導を行なう必要があります。
 市町村は、必要に応じ、母子健康センターを設置するようにつとめ、母子保健に関する各種の相談に応ずるとともに、母性ならびに乳児および幼児の保健指導を行ない、助産も行ないます(第二十二条)。

●労働基準法
 産前休暇は、本人の請求により6週間、多胎妊娠の場合は14週間、産後は8週間休業することができます(第六十五条)。
 妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しないもの)は、本人の請求により時間外労働や休日労働、深夜労働が免除されます(第六十六条)。
 出産後、子どもが1歳未満の間は、本人の請求により、1日2回、少なくても各30分の育児時間をとることができます(第六十七条)。
 妊産婦については、重量物を扱う業務や、有毒ガスを発散する場所での業務など、有害な業務につかせてはならないことになっています(第六十四条)。
 妊娠中は、本人の請求により、軽易な業務に転換することができます(第六十五条)。

●雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)
 事業主は、その雇用する女子労働者が、母子保健法の規定する保健指導、または健康診査を受けるために必要な時間を確保するようにつとめなければなりません(第二十二条)。
 事業主は、その雇用する女子労働者が、前条の保健指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減など、必要な措置を講ずるようにつとめなければなりません(第二十三条)。

●育児休業等に関する法律
 事業主に申し出ることにより、子どもが1歳に満たない間、原則として1回、育児休業をすることができます(第五条)。
 事業主は、労働者が休業申し出をし、または育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対し解雇、その他不利益な取扱いはできないことになっています。

●おもな母子医療の公費負担制度
 妊婦健康診査 妊娠した女性は、妊娠の前半期と後半期に、おのおの1回ずつ、都道府県などの指定する医療機関において、無料で健康診査を受けることができ、必要に応じて精密検査が行なわれます。
 妊婦健康診査での超音波検査 分娩予定日に35歳以上に達する妊婦について、妊娠中1回の経腹超音波断層検査が行なわれます。検査が行なわれる時期は、妊娠後半期が望ましく、原則として、妊婦の健康診査の後期のものに一致して行なうことになっています。
 HIVの公費妊婦健診 青森県、千葉県、埼玉県などが、全国に先がけて実施しています。
 B型肝炎(かんえん)母子感染防止対策 感染性(ウイルス性)肝疾患の1つであるB型肝炎については、母子垂直感染による子どものキャリア化を防ぐことを目的として、妊婦のHBs抗原のスクリーニングが、公費負担で行なわれます。
 図「B型肝炎母子感染防止対策フローチャート」のように、HBs抗原が陽性であった場合、HBe抗原の検査は保険適用となり、乳児に対する感染予防処置(免疫(めんえき)グロブリンワクチンの投与、HBs抗原・抗体検査など)が保険給付の対象となります。

●分娩費(ぶんべんひ)、配偶者分娩費および育児手当金
 健康保険法では、疾病(しっぺい)のない妊娠・出産は現金給付(自費)で、疾病が発生した場合は、現金・現物給付の両方で援助することになっています。子育て援助の一環として、分娩費・育児手当金を一括して、1994年(平成6)10月から、最低補償額を30万円に引き上げて支給されています。死産、早産などにも支給されています。
 先天代謝異常などの検査 フェニルケトン尿症(「フェニルケトン尿症」)などの先天代謝異常や、先天性甲状腺(こうじょうせん)機能低下症(クレチン症(「甲状腺機能低下症」のクレチン症(先天性甲状腺機能低下症))などは、早期に発見し早期に治療することにより、知的障害などの心身障害の発生を予防することが可能です。
 このため、すべての新生児を対象として、血液や尿を用いてのマススクリーニング検査が行なわれます。これにより、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症(「メープルシロップ尿症(楓糖尿病)」)、ホモシスチン尿症(「ホモシスチン尿症」)、ガラクトース血症(「ガラクトース血症」)、先天性副腎皮質(ふくじんひしつ)過形成症(「先天性副腎皮質過形成症」)、クレチン症、神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ)(「神経芽細胞腫」)などの病気がわかります。
 疾病が発見された場合、小児慢性特定疾患治療研究事業により、公費により治療を受けることができます。
 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の療養の援助など 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)や妊産婦の糖尿病、貧血、産科出血、心疾患などの合併症は、妊産婦死亡や周産期死亡の原因となるほか、未熟児や心身障害の発生原因となり得ます。
 このため、訪問指導のほか、入院して治療の必要のある妊産婦や、低所得家庭の妊産婦に対しては、早期に適切な医療が受けられるように、医療援助が行なわれます(母子保健法十七条)。
 未熟児養育医療 出生時の体重がきわめて少ない(2000g以下)場合とか、体温が異常に低い場合、呼吸器系や消化器系などに異常がある場合、あるいは異常に強い黄疸(おうだん)がある場合などでは、死亡率が高く、心身障害を残す可能性が高いので、適切な処置をとることが必要となります。
 養育医療(母子保健法二十条)は、養育に医療が必要な未熟児に対して、医療機関に収容して医療給付(世帯の所得に応じた費用徴収がある)を行なうことになっています。
 小児慢性特定疾患治療研究事業 小児の慢性疾患は、その治療が長期にわたり、医療費の負担も高額となり、これを放置することは、児童の健全な育成を阻害することになります。
 そのために、現在小児慢性特定疾患治療研究事業の対象疾患について、給付が行なわれています。
 療育医療 身体にかなりの障害がある児童、または、疾患を放置すればかなりの障害を残すと認められる児童で、手術などの治療によって確実な治療効果が期待できる場合には、指定育成医療機関において公費により医療の給付が行なわれます(児童福祉法二十条)。
 身体に障害のある児童に対しては、補装具の給付が行なわれ(同二十一条の六)、結核児童に対しては、療育の給付がなされています(同二十一条の九)。
 周産期医療対策 妊娠・分娩時の突発的な緊急事態に対応するため、これまで新生児集中治療管理室(NICU)、母体・胎児集中管理室、ドクターカーの整備補助が行なわれてきました。
 さらに、平成7年度よりエンゼルプランの一環として、小児医療施設・周産期医療施設の整備のために、追加財源措置がとられ、平成8年度から周産期医療システム、総合医療センターへの運営費補助が設けられています。

●児童手当制度
 21世紀をになう子どもが、すこやかに生まれ育つための環境づくりの重要な柱として、世代間における社会的な扶養(ふよう)、および児童養育家庭に対する育児支援の強化という観点から、厚生省(現厚生労働省)は、児童福祉審議会の意見具申を得て、1991年(平成3)から児童手当法の改正が行なわれています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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