メープルシロップ尿症(読み)メープルシロップニョウショウ(その他表記)Maple syrup urine disease

デジタル大辞泉 「メープルシロップ尿症」の意味・読み・例文・類語

メープルシロップ‐にょうしょう〔‐ネウシヤウ〕【メープルシロップ尿症】

先天性代謝異常の一。分枝鎖アミノ酸バリンロイシンイソロイシン)の代謝が阻害され、これらのアミノ酸やそれに由来するα-ケト酸体内に蓄積することによって起こる。尿や汗にメープルシロップのような特有のにおいがある。生後早期に発見し治療を行う必要がある。MSUDmaple syrup urine disease)。楓糖かえでとう尿症。

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六訂版 家庭医学大全科 「メープルシロップ尿症」の解説

メープルシロップ尿症
メープルシロップにょうしょう
Maple syrup urine disease
(子どもの病気)

原因は何か

 メープルシロップ尿症は、分枝(ぶんし)アミノ酸と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンの代謝経路にあるα(アルファ)­ケト酸脱水素酵素複合体の活性が低下するために生じる病気です。本症ではこれら3種の分枝アミノ酸だけでなく、α­ケト酸が体内にたまることが特徴です。

 日本での頻度は少なく、約60万人に1人とされています。

症状の現れ方

 メープルシロップ尿症は哺乳開始後数日で哺乳力の低下、嘔吐などがみられ、さらに進行するとぐったりして元気がない、けいれん昏睡(こんすい)といった重い症状が早期に現れます。治療されなければ死亡することもある重い病気です。

 新生児マススクリーニングではロイシン高値を指標にして発見されますが、重症例ではマススクリーニングの結果が判明する前に発症していることがあり、迅速な対応が必要です。一部には軽症型や大量のビタミンB1を投与することにより症状の改善がみられる症例もあります。

治療の方法

 分枝アミノ酸は食物中の蛋白質に含まれているので、哺乳直後から体内での蓄積が始まります。生後早期から、哺乳力低下、けいれん、意識障害などの重い症状を示す赤ちゃんでは、血液中のロイシン濃度を低下させるために透析(とうせき)交換輸血などが必要な場合があります。

 食事療法は、分枝アミノ酸除去ミルクを用いた分枝アミノ酸制限食です。すなわち、発育に必要な最小限の分枝アミノ酸を母乳や普通ミルクもしくは食事(低蛋白食)によって与え、不足する栄養素を分枝アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)を含まない特殊ミルクで補うことになります。血液中のロイシン濃度を5㎎/㎗以下に維持するのが目標です。

 ロイシンは神経への毒性が強いため、10㎎/㎗以上に上昇するとふらつき、不機嫌などの症状が現れます。そのため生涯にわたり厳しい食事制限を続ける必要があります。また、コントロールがよくても感染症などを契機に重い症状を再発する危険性もあり、慎重なフォローが必要です。

大浦 敏博


メープルシロップ尿症
メープルシロップにょうしょう
Maple syrup urine disease
(遺伝的要因による疾患)

どんな病気か

 ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸を分解する酵素(α(アルファ)­ケト酸脱水素酵素)の異常によって生じます。尿がメープルシロップとよく似たにおいをもつことから、この名前がつけられました。

症状の現れ方

 新生時期から哺乳不良、嘔吐、けいれん、多呼吸、昏睡(こんすい)低血糖などの症状で発症する古典型のほかにも、症状の軽い間欠型、中間型やビタミン反応型などの病型があります。

治療の方法

 前記3種類のアミノ酸を制限したミルクと蛋白制限食による食事療法を行います。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「メープルシロップ尿症」の解説

めーぷるしろっぷにょうしょうかえでとうにょうびょう【メープルシロップ尿症(楓糖尿病) Maple Syrup Urine Disease】

[どんな病気か]
 ロイシン、イソロイシン、バリンという3種類のアミノ酸は、分枝側鎖(ぶんしそくさ)アミノ酸(さん)と呼ばれています。この3つのアミノ酸は、アミノ基がとれて分枝鎖(ぶんしさ)ケト酸(さん)という酸に変わった後、脱炭酸酵素(だつたんさんこうそ)のはたらきで分解されます。
 この脱炭酸酵素が生まれつき欠けているために、分枝鎖アミノ酸とケト酸の血液中の量が増えてくる病気です。尿や汗などがメープルシロップのような甘いにおいを発するので、この病名がついています。
[症状]
 症状の現われる時期や経過、薬に対する反応のちがいなどから、つぎのように分類されています。
●古典型
 哺乳(ほにゅう)を開始すると、ミルクの飲みが悪くなり、嘔吐(おうと)、けいれんなどが現われます。これは、分枝鎖ケト酸が増えて血液が酸性になるアシドーシス(酸血症(さんけっしょう))の症状です。
 進行すると、意識が薄れて昏睡(こんすい)におちいり、生命にかかわることがあるので、早期の治療が必要です。
●間欠型(かんけつがた)
 新生児期は何事もなくすぎますが、感染症にかかったり、たんぱく質の多い食事をしたりすると、急激にアシドーシスの症状が現われます。
 発作(ほっさ)のおこっていないときは、血液中の分枝鎖アミノ酸は増えていません。
●中間型
 ゆっくりとした経過をたどりますが、知能の低下や急なアシドーシスの発作がおこったりすることもあります。ふだんから、血液中の分枝鎖アミノ酸が増えています。
●サイアミン反応型
 ビタミンB1剤で治療すると、血液中の分枝鎖アミノ酸の値が下がり、症状も改善します。
[検査と診断]
 新生児スクリーニングで血液中のロイシンの量が4mgを超えたら、精度の高いアミノ酸分析計を用いて、血液や尿の分枝鎖アミノ酸の増加を調べます。
[治療]
 アシドーシスの発作がおこっていれば、血液透析や交換輸血を行なって、体内に蓄積した分枝鎖アミノ酸とケト酸を取り除きます。
 発作が治まったら、分枝鎖アミノ酸を制限した食事療法を行ない、血液中のロイシンの量を2~4mgに保つように調節します。
 目標はフェニルケトン尿症と同じですが(「フェニルケトン尿症」)、感染症などで状態が悪化するので、慎重な育児が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

内科学 第10版 「メープルシロップ尿症」の解説

メープルシロップ尿症(楓糖尿症)(アミノ酸代謝異常)

(2)メープルシロップ尿症(maple syrup urine disease:MSUD(楓糖尿症))
病因
 分枝アミノ酸(ロイシン,イソロイシン,バリン:いずれも必須アミノ酸)のα-ケト酸酸化的脱炭酸反応が障害され,体内に分枝アミノ酸や分枝α-ケト酸が蓄積する疾患である【⇨図13-3-5】.体液や尿に甘い匂いがあることから命名された病名である.
神経症状
 重症から軽症まで4つの病型に分類されている(表15-10-1).最重症型は古典型とよばれ,生後まもなくより嘔吐,哺乳力低下,嗜眠,痙攣,筋力低下などをみる.一般状態は次第に悪化する.[青木継稔]
■文献
Behrman RE, Kliegman RM, et al eds: Nelson Textbook of Pediatrics, 19th ed, WB Saunders, Philadelphia, 2011.Scriber CR, Beaudt AL, et al eds: The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 8th ed, McGraw-Hill, New York, 2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

栄養・生化学辞典 「メープルシロップ尿症」の解説

メープルシロップ尿症

 →メープルカエデシロップ病

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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