ホモシスチン尿症(読み)ホモシスチンにょうしょう(その他表記)Homocystinuria

六訂版 家庭医学大全科 「ホモシスチン尿症」の解説

ホモシスチン尿症
ホモシスチンにょうしょう
Homocystinuria
(子どもの病気)

原因は何か

 メチオニンというアミノ酸代謝経路にあるシスタチオニンβ(ベータ)合成酵素に障害があるためにホモシスチンが体内にたまり、尿中に大量に排泄される病気です(図43)。日本での頻度は低く、90万人に1人とされています。

症状の現れ方

 生まれた時は正常ですが、治療しないまま放置すると年齢とともに症状が現れてきます。主なものとしては知能障害、眼の水晶体脱臼(すいしょうたいだっきゅう)、骨格の異常(身長が高い、手足、指が長い)、血栓(けっせん)塞栓症(そくせんしょう)があります。なかでも、血栓症は本症の死亡原因になるもので、心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞(のうこうそく)で急死する例が報告されています。シスタチオニンβ合成酵素の補酵素であるビタミンB6を大量に投与すると症状が改善するタイプもありますが、日本では少ないようです。

 新生児マススクリーニングでは、血液中のメチオニン高値を指標に発見されます。メチオニンは赤ちゃんの肝臓病や他の代謝異常症でも上昇することが知られているので、ホモシスチン尿症と診断するためには尿中に大量のホモシスチンが排泄されていることを確かめる必要があります。

治療の方法

 ホモシスチンはメチオニンというアミノ酸からつくられるため、メチオニン制限食による食事療法を行い、有害なホモシスチン濃度を低下させます(図43)。また、生成物であるシスチンが合成されないので、食事に添加します。治療にはメチオニンを除去し、シスチンを強化した特殊ミルクを用います。メチオニンも必須アミノ酸なので、発育に必要な最小限のメチオニンを母乳や普通ミルク、食事(低蛋白食)によって与え、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。血液中のメチオニン濃度は1㎎/㎗以下を目標にします。

 本症はコントロールが悪いと血栓症を起こし、最悪の場合は死亡する危険性があります。そのため、厳格な食事療法を生涯続ける必要があります。ビタミンB6投与でホモシスチン濃度が低下するタイプの患者さんでは、ビタミンB6を併用することで食事療法を緩和することが可能です。

 最近、ベタインという物質を服用することでホモシスチン濃度が低下するということがわかってきましたが、まだ日本では薬としては認可されていません。

大浦 敏博



ホモシスチン尿症
ホモシスチンにょうしょう
Homocystinuria
(遺伝的要因による疾患)

どんな病気か

 ホモシステインからシスタチオニンを合成するシスタチオニン合成酵素の異常によって、ホモシステイン/ホモシスチンが体内に蓄積し、知能障害、眼の水晶体脱臼(すいしょうたいだっきゅう)、全身の動静脈血栓症(どうじょうみゃくけっせんしょう)(とくに心筋梗塞(きんこうそく)脳梗塞(のうこうそく))、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)骨格異常(こっかくいじょう)(高身長、四肢指伸長)などを起こします。

治療の方法

 ビタミンB6の投与で軽快する場合もあります。ビタミンB6に反応しない型では、メチオニン除去ミルクと蛋白制限による食事療法とシスチンの補充を行います。ベタインの投与も有効とされています。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「ホモシスチン尿症」の解説

ホモシスチン尿症(先天性アミノ酸・尿素回路および有機酸代謝異常症)

(2)ホモシスチン尿症(homo­cystinuria)(図13-3-11)
定義・概念
 メチオニンの代謝経路において,中間代謝産物のホモシスチンがシスタチオニンに変換されず,体内に多量に蓄積され尿中へ排出される常染色体劣性遺伝病である.発見率は1/176000である.出生時には無症状であるが,乳児期以降に発育障害,知的障害,水晶体偏位による視力低下・緑内障などを引き起こす.病態生理 シスタチオニンβ-シンターゼCBS)の欠損によるものが大部分を占める.CBSの遺伝子座は21q22.3で全長30kb,23エクソンからなり,現在では100種以上の変異が同定されている.増加したホモシステインはホモシスチンに変換され尿中に排泄され,また一部はメチオニン合成酵素(MS)によりメチオニンに変換されて,蛋白合成に用いられる.CBSの欠損による典型的なタイプ以外に,MSの欠損あるいは補酵素としてのビタミンB12代謝異常,葉酸代謝異常によっても生じる.典型的なCBS欠損症は,水晶体脱臼,中枢神経系障害(知能障害,痙攣)全身の動静脈血栓症,骨格異常(Marfan症候群様体型,骨粗鬆症)を起こす. 血中ホモシステイン高値は,血管内皮障害,血管平滑筋増殖促進,血小板凝集亢進を起こし,動脈硬化などの生活習慣病の原因として注目されている.また,一般健常者の血栓性疾患においても,血清ホモシステイン濃度が高値であることが知られている.
鑑別診断
 新生児マススクリーニングでは血中メチオニンの上昇(1~2 mg/dL以上)として把握される.肝疾患や蛋白質を多くとったときに高メチオニン血症がみられる.ほかのメチオニンの上昇する疾患との鑑別には,血漿および尿中アミノ酸分析を行う.ホモシステインは血漿蛋白と容易に結合するため,血漿アミノ酸分析ではホモスチン尿症患者でもホモシステインの上昇を認めないこともある.確定診断のためには,蛋白に結合したホモシステインを含んだ血中総ホモシステインの測定を行う.治療 メチオニンを制限し,不足するシスチンを添加した食事療法を一生継続して行う.乳児ではメチオニンの制限のために治療用メチオニン除去ミルクを使用するが,メチオニンは成長に欠かせない必須アミノ酸であるため低メチオニンミルクに切り替えたり,通常の乳児用ミルクと併用したりして摂取量をコントロールする.また,ホモシステインをメチオニンへ還元する際の補助となるビタミンB6やビタミンB12,葉酸を併用して血中ホモシステイン濃度を下げるビタミン療法を行うこともある.[中屋 豊]
■文献
Behrman RE eds: Nelson Textbook of Pediatirics, 17th ed, pp. 397-398, 2396-2427, Elsevier, 2006.
Saheki T, Kobayashi K, et al: Reduced carbohydrate intake in citrin-deficient subjects. J Inherit Metab Dis, 31: 386-394, 2006.

ホモシスチン尿症(アミノ酸代謝異常)

(3)ホモシスチン尿症(homocystinuria)
病因
 ホモシスチン尿症は,メチオニン代謝産物であるホモシスチンが血中に蓄積し,尿中に大量に排泄される常染色体劣性遺伝性アミノ酸代謝異常症である【⇨図13-3-11】.本症には,Ⅰ型,Ⅱ型,Ⅲ型が知られ,Ⅰ型はホモシスチンをシスタチオニンに変換するシスタチオニン合成酵素(遺伝子:21番染色体長腕)欠損,Ⅱ型はホモシスチンをメチオニンに再メチル化する5-メチルテトラヒドロ葉酸-ホモシスチン-メチルトランスフェラーゼ欠損,Ⅲ型はホモシスチンをメチオニンに再メチル化するのに必要な5-メチルテトラヒドロ葉酸を生成するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(遺伝子:1番染色体短腕)欠損によるホモシスチン尿症がある【⇨13-3-4)】.
神経症状
 Ⅰ型は古典型ともいわれ,多くは3歳以後に,水晶体亜脱臼にて発見される.知的障害は進行性で70%にみられ,精神症状は50%以上,痙攣は20%に観察される.Marfan症候群様の骨格異常があり,大・小血管の血栓・塞栓が発生する.約40%は,ビタミンB6大量投与が有効(ビタミンB6反応型)である.
 Ⅱ型は,生後数カ月頃から嘔吐,哺乳不良,嗜眠,筋緊張低下,発達遅滞,巨赤芽球性貧血などを呈する. Ⅲ型は,酵素欠損の程度により臨床症状の重症度に差がある.完全欠損例は,新生児期に無呼吸発作,ミオクローヌス痙攣があり,昏睡から死に至ることが多い.部分欠損例は,慢性的に経過し,知的障害,痙攣,小頭症,筋緊張亢進,四肢強直などをみる.[青木継稔]
■文献
Behrman RE, Kliegman RM, et al eds: Nelson Textbook of Pediatrics, 19th ed, WB Saunders, Philadelphia, 2011.Scriber CR, Beaudt AL, et al eds: The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 8th ed, McGraw-Hill, New York, 2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「ホモシスチン尿症」の解説

ほもしすちんにょうしょう【ホモシスチン尿症 Homocystinuria】

[どんな病気か]
 メチオニンは、体内で合成することができず、食品中に含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸(さん)の1つで、シスタチオニン合成酵素(ごうせいこうそ)のはたらきによって、ホモシステインという物質に変換され、その後、システインとシスチンにつくり変えられます。
 この酵素が生まれつき欠けていると、血液中のホモシステインやメチオニンの量が増え、ホモシスチンという物質が尿中に排泄(はいせつ)されるようになります。これが、ホモシスチン尿症です。
 この病気は、ある種の薬の使用で後天的にもおこりますが、先天性のものは常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)し、新生児マススクリーニングで100万人に1人の割合で発見されます。
[症状]
 目、骨格、中枢神経(ちゅうすうしんけい)、血管系に障害がおこります。
 目では、2歳ごろから水晶体(すいしょうたい)のずれがおこったり、近視(きんし)となります。
 骨格では、手足や手指が長くなります。20歳すぎから骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がおこり、骨がもろくなります。
 中枢神経系では、1~2歳の間に発育・発達の遅れが目立つようになり、歩き始めが遅れたり、よたよた歩きになったりします。約50%にけいれんや知能障害がみられます。
 血管系では、血栓(けっせん)(血のかたまり)がつまる脳梗塞(のうこうそく)や肺塞栓(はいそくせん)がおこり、死因になることが多いといわれています。
[治療]
 メチオニンを制限し、シスチンを多く含む食事療法を優先して行ないます。ベタインという薬が有効なことが最近わかりました。
 ビタミンB6の大量使用が有効なこともありますが、専門医による慎重な治療が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ホモシスチン尿症」の意味・わかりやすい解説

ホモシスチン尿症 (ホモシスチンにょうしょう)
homocystinuria

硫黄を含むアミノ酸(メチオニン)の代謝障害により,尿中に大量のホモシスチンが排出される遺伝病。知能障害,水晶体脱臼,脊柱側彎(そくわん),クモ状指,骨の脆弱(ぜいじやく)性を示し,血栓を起こしやすい。
先天性代謝異常
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ホモシスチン尿症」の解説

ホモシスチン尿症

 ホモシスチンを尿へ排泄する疾病.シスタチオニン合成酵素の欠損により発症する.知能障害がみられる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のホモシスチン尿症の言及

【先天性代謝異常】より

…(1)糖質代謝異常 糖原病ガラクトース血症など生体のエネルギー源であるブドウ糖の供給障害が中心である。(2)アミノ酸代謝異常 タンパク質が分解吸収され,再合成して利用される過程の障害で,フェニルケトン尿症楓糖尿症ホモシスチン尿症などがある。(3)中性脂肪代謝異常 血漿中の脂肪の増加,組織への沈着が起こる。…

※「ホモシスチン尿症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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