毒蛇咬傷(読み)どくじゃこうしょう

六訂版 家庭医学大全科 「毒蛇咬傷」の解説

毒蛇咬傷
どくじゃこうしょう
Poisonous snake bite
(中毒と環境因子による病気)

どんな病気か

 日本での毒蛇咬傷は、主にマムシハブヤマカガシによるものです。これらのヘビにかまれると、そのヘビ毒によって、局所と全身にさまざまな症状が起こります。

原因は何か

 マムシ、ハブのヘビ毒には、出血作用、筋融解(ゆうかい)壊死(えし)作用、血管拡張・透過性(とうかせい)亢進作用、溶血(ようけつ)作用があり、局所に出血やはれ、疼痛、全身に循環障害などを起こします。ヤマカガシのヘビ毒には、出血作用、血液凝固促進作用、溶血作用があり、局所に出血、全身に出血傾向やDIC播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群)などを起こします。

症状の現れ方

 マムシ、ハブでは、かまれた直後から疼痛、腫脹(しゅちょう)(はれ)、出血が生じ、疼痛、腫脹が体の中枢のほう(心臓のほう)へと広がっていきます。これが大きいと重症といえ、循環血液量の減少などによる低血圧やショックが生じ、さらには腎不全や筋膜内の圧が高まることによる筋肉の壊死が起こります。

 ヤマカガシでは、かまれた直後は疼痛、腫脹、出血は軽いのですが、30分~2時間後から持続的な出血がみられ、以後止まりません。疼痛は遅れて起こります。腫脹はあまり目立たないことが多いようです。重症例では全身に出血傾向がみられ、腎不全やDICが起こります。

検査と診断

 局所に、牙痕(がこん)(かまれたあと)、疼痛、腫脹、出血という特徴的な所見がみられます。とくにヘビ毒が体内に入った証拠を示す出血が重要です。全身症状については、血液検査により溶血(ようけつ)、筋破壊、腎機能、血液凝固能などを調べ、また尿検査により溶血、腎機能を調べます。

治療の方法

 毒蛇にかまれた直後は、手足の場合、かまれた部位より心臓に近い側を(しば)り、咬傷部をよく洗い、消毒します。そして、咬傷部を皮下組織、必要に応じて筋膜まで切開し、内部を洗浄して毒を吸引します。

 軽症の場合を除き、それぞれのヘビ毒に対する抗血清投与を行います。また、抗生物質と破傷風(はしょうふう)トキソイドの予防的投与を行います。

 輸液は十分に行うとともに、対症療法を行います。腎不全、DICなどが生じた場合は、それらの治療を行います。

病気に気づいたらどうする

 すぐに咬傷部より心臓に近い側を縛り、救急外来を受診するか、病院に連絡して指示を受けてください。

関連項目

 急性腎不全DIC出血傾向

栗原 伸公

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「毒蛇咬傷」の解説

毒蛇咬傷(有毒動物による咬刺傷(毒蛇、ハチ))

(1)毒蛇咬傷
概念・疫学
 マムシは奄美大島以北の日本全土,ヤマカガシは本州,九州,四国,大隅諸島,ハブは奄美・沖縄地方に生息している.マムシ咬傷は,年間1000件以上あると推定され,毎年10人前後の死亡例がある.ヤマカガシは,これまでに数十例の重症例と4例の死亡例が報告されているのみであり,ハブは毎年100人前後の咬傷患者が発生しているが,死亡例はほとんどみられない.
病態生理
 マムシ,ヤマカガシ,ハブの毒成分は,多種類の蛋白質からなり,出血作用,壊死作用,血管透過性亢進作用,血液凝固促進または抑制作用,神経毒性などをもつ.これらの毒成分により,咬傷部の局所症状と全身症状が出現する.局所症状としては,疼痛,腫脹,軟部組織の壊死が,全身症状としては,出血傾向,ミオグロビンや微小血栓形成による急性腎不全,血管透過性亢進による循環血液量の減少,DICなどが認められる.神経毒性としては,眼症状として複視や霧視がある.
臨床症状
 各毒蛇咬傷の症状を表16-2-3に示す.マムシ咬傷では,受傷直後から,局所の強い疼痛が生じ,30分前後から腫脹が体幹方向に拡大する.腫脹の程度は表16-2-4のように分類されており,早いときには数時間で,遅いときには1日以上かかって一肢全体に進行する.腫脹はハブ咬傷ほど強くはないため,コンパートメント症候群による横紋筋融解は比較的少ない.血管に毒が注入されたケースでは血小板が1時間以内に1万/μL以下に急激に減少し,全身性の出血を生じることがある.ヤマカガシ咬傷では,咬傷後に一過性の激しい頭痛が生じるが,局所の腫脹や疼痛はほとんどなく,全身症状としての出血傾向がおもな症状である.ハブ咬傷では,電撃性の疼痛が持続し,腫脹が強く,コンパートメント症候群を生じやすく,減張切開が必要となることも多い.
診断
 マムシは上顎の先端に2本の長い毒牙をもっているため,牙痕は針で刺したような痕が1つまたは1 cm前後の間隔で2つみられる.ヤマカガシは上顎の奥に毒牙があるため,顎の深い部分で咬まれなければ,毒液は注入されない.マムシ咬傷で血管内に直接毒が注入された場合には,腫れが軽度でヤマカガシ咬傷と類似するが,マムシでは血小板減少が高度であるのに対して,ヤマカガシではフィブリノゲンの減少が主体となる.ハブ咬傷では,咬傷部が受傷から30分くらい経過してもまったく腫れない場合は,ハブ咬傷ではないか,毒が組織内に入らなかったことを意味する.
治療
 以前から経験的に,中枢側の緊縛,局所の切開・吸引,冷却などが行われてきたが,現在では否定的とされている.ただし,咬まれた直後に,現場にて咬傷専用の携帯型吸引器(Extractor)などを用いて,咬傷部の毒を吸引することは,ある程度有効と考えられる.いずれの毒蛇咬傷においても,咬傷部を生理食塩水で十分に洗浄し,輸液を開始して,腫脹や血管透過性亢進による体液の喪失を補い尿量の確保に努める.各蛇毒に対する抗毒素を投与する際は,アナフィラキシーショックと血清病に注意が必要で,アナフィラキシー予防のために,投与前にステロイド薬と抗ヒスタミン薬を投与すべきとの考えもある.抗毒素投与の際には,アナフィラキシーショックが生じる可能性を考え,気道確保やアドレナリンの準備も必要である.各蛇毒咬傷に対する治療について,表16-2-5にまとめる.[岩崎泰昌]
■文献
岩崎泰昌,大谷美奈子:自然毒.中毒学—基礎・臨床・社会医学—(荒木俊一編),pp176-181,朝倉書店,東京,2002.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),pp498-506,医学書院,東京,2009.堺 淳:ヘビ.中毒症のすべて(黒川 顕編),pp252-257,永井書店,東京,2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「毒蛇咬傷」の意味・わかりやすい解説

毒蛇咬傷
どくじゃこうしょう
snake bite

毒ヘビにかまれた傷。蛇咬傷ともいう。ヘビ毒は,神経毒,出血毒,蛋白溶解毒に区分される。一般的な症状としては,咬傷部の二つの牙痕,その付近の斑状出血と腫脹があり,次いでリンパ管炎,高熱,さらに毒性の強い場合は,蜂窩織炎 (ほうかしきえん) や壊死が認められ,呼吸麻痺を招くこともある。ヘビの種類によって解毒法が異なり専門技術を要するが,応急処置としては,毒液の排除を第一とし,それが困難な場合は毒素の吸収はリンパを介するので,咬傷部の中枢側を軽く縛る。しかし,抗毒素血清療法 (→抗血清 ) が最も有効で,早く行なうほど効果がある。

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