民族心理学という用語は、19世紀の中ごろ、ヘーゲルに始まる個人を超越した「客観的精神」を重視する哲学的基盤とヘルバルト流の心理学を背景として、ラツァルスとシュタインタールが、『民族心理学と言語学の研究誌』(1860)を発刊したとき、初めて使われたといわれている。彼らは、民族心理学の目的は、客観的精神の原型ともいうべき民族精神の所産である言語、神話、宗教、文学、芸術、慣習、法律、家族、教育などの研究を通して民族精神を研究することであるとした。これをさらに発展させたのは、ブントである。
ブントは、意識現象を究極的には心的要素の結合とみ、これを実験的に研究する「生理学的心理学」の体系を打ち立てる一方、民族精神のような高等精神作用は、社会的協同生活に依存するところが大きいから、その精神的所産である言語や神話、慣習などを通して研究する「民族心理学」を考え、これを「言語、神話、慣習などの発達原理の研究」と定義し、1900年から20年にかけて『民族心理学』Völkerpsychologie 10巻の大著を発表した。
ラツァルス、シュタインタールにしてもブントにしても、彼らの民族心理学はもっぱら既存の文献資料に基づく研究であったが、その後、実際に未開民族に接しての調査研究も行われるようになり、また個々の民族の特性を明らかにしようとする「民族性心理学」を提唱する者も現れたが、この種の研究方向は、やがて文化人類学、社会人類学、民族学などに統合吸収されてきている。他方、孤立した個人の心性を超えた客観的精神、集団心理の問題は、社会心理学、集団心理学として扱われるようになっている。
[辻 正三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…他方E.デュルケームは,社会学的立場から,個人意識とは区別された平面で集合表象を重視し,それをもって宗教,道徳などの研究に進んでいる。ドイツでは,W.M.ブントらがさまざまな社会,国家の特有の精神的特徴に注目し,民族心理学を提唱した。なお,これとは流れを異にするが,E.トレルチやM.ウェーバーによる宗教や実践倫理(エートス)の考察も,後世の社会意識の研究に大きな影響を与えるものとなった。…
…その立場は要素主義の色彩が強く,彼の心理学は構成心理学と呼ばれる。こうして彼は個人の単純な精神は生理学的心理学の研究対象としたのであるが,他方,人間の複雑高等な精神は文化や社会生活のうちに表現されるとして,それを民族心理学Völkerpsychologieが研究するものとした。そして1900年以降亡くなるまでの20年間,民族の言語,芸術,神話,宗教,法律,歴史を資料にして民族心理学の研究に没頭した。…
※「民族心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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