海底遺跡や沈没船、有史以前の遺物など、水中にある文化遺産を保護するための条約。2001年11月にユネスコ(国連教育科学文化機関)の総会で採択され、2009年1月に発効した。水中文化遺産とは、文化的、歴史的、考古学的性質を有した水中の遺物で、古代文明や人類の航海の歴史を解き明かす重要な痕跡(こんせき)をいう。ユネスコでは水中に少なくとも100年以上存在しているものと遺産を定義し、次の3種類に分類している。(1)遺跡、構築物、建造物、人工遺物、および人間の遺骸。(2)船舶、航空機などの乗り物やその貨物。(3)先史学的性質を有するもの。条約では公海の海底にある遺産も対象とし、遺産のある場所からもっとも近い距離にある国が調査や保護を行うことなどを定めている。従来は1994年に発効した国連海洋法条約や各国の国内法の規定に基づき、おもに領海内にある水中の文化遺産に対して保護が行われてきた。しかし、排他的経済水域や大陸棚などの領海外に関する国際的な規定は存在していなかったため、売買目的などの略奪行為が後を絶たなかった。水中文化遺産保護条約は、領海、排他的経済水域、深海底などにある遺産の保護を目ざした条約で、文化遺産の商業利用の禁止、現状の保全、専門家の徹底した調査などについて規定している。2011年時点で、条約の批准国はヨーロッパや中東、南米を中心にした37か国・地域である。アメリカやイギリス、日本、中国などは、排他的経済水域での沿岸国の管轄権が強すぎる点や遺物に関する国内現行法との兼ね合いから批准していない。2012年4月、ユネスコはどの国も管轄権をもたない北大西洋の公海に没し、100年経過した豪華客船タイタニック号が水中文化遺産保護条約の対象となることを発表し、破壊や略奪行為への歯止めをかける措置を講じている。
[編集部]
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