水溶性天然ガス(読み)すいようせいてんねんガス

改訂新版 世界大百科事典 「水溶性天然ガス」の意味・わかりやすい解説

水溶性天然ガス (すいようせいてんねんガス)

天然ガスのうち,可燃性で,メタンを主成分とし,付随水とともに産出するものをいう。付随水は,海成の場合は堆積当時の海水を取り込むので,塩分濃度が海水に近い値である。

海底または湖底に有機物の遺骸が酸素の乏しい環境で堆積すると,これをバクテリアが分解してメタンを発生させる。このメタンが水と結合して水和物となるので,散逸せずに地中に埋没する。これが埋没深度増大とともに温度上昇し,再びメタンガスとなり周辺の水に溶けて水溶性天然ガスとなる。あるいは有機物のバクテリア分解と同時に重合,縮合作用が起こるのでケロジェンになり,これが埋没深度増大とともに熱分解して炭化水素になる。いずれにしても水溶性天然ガスは,バクテリア発酵による生物起源メタンが主体である。付随水には日本国内の主要水溶性天然ガス田のようにヨウ素イオン濃度の高いものがあるが,この起源は海藻類である。

水溶性天然ガスはほとんどが新第三系以後の地層から産出される。これは古期地層ほどガスの発生,補給能力が一般に小さくなるためであり,日本国内の主要水溶性天然ガス鉱床も新第三系~第四系が広大な平野の下に厚く堆積している。付随水への天然ガスの溶解度は,ガス層の圧力に比例し,温度およびCl⁻濃度に反比例する。実際の鉱床では,圧力は深度に相当する静水圧であるものがほとんどで,付随水への溶解度は深度とともに増大するが,一般に大気圧下における付随水との体積比は2以下である。これらのことから,水溶性天然ガスは特別な場合を除き,盆状構造の中心部あるいは緩傾斜構造中に存在することが多い。しかし,アメリカのメキシコ湾岸の古第三系には大水溶性ガス鉱床が高温・高圧下に埋蔵されていることが知られている。

水溶性天然ガスは日本,アメリカ,イタリア,フィリピンネパールおよびハンガリーなど世界各地に存在するが,商業ベースで操業する水溶性天然ガス田と呼ばれるものは数少ない。現在日本が最大生産量を示している。日本国内での水溶性天然ガスの存在は北海道から沖縄まで四国を除いて知られており,原始埋蔵量は約7400億m3とされている。まとまったガス田としては南関東,新潟および佐土原がある。南関東ガス田は房総半島北部から関東平野南部にわたる地域で,面積約4300km2で,原始埋蔵量約5500億m3といわれる。ガス層は新第三紀鮮新世から第四紀更新世にまたがる上総層群である。新潟ガス田は新潟市付近にあり,面積約3700km2で,原始埋蔵量約900億m3といわれる。ガス層は第三紀鮮新世から第四紀更新世にわたる主として海成の地層である。佐土原ガス田は宮崎市の旧佐土原町付近にあり,面積約550km2で,原始埋蔵量は約300億m3といわれる。ガス層は後期中新世から前期更新世にまたがる宮崎層群で,主として海成であり,泥層,砂層あるいは礫層の互層である。日本国内の1996年の水溶性天然ガス生産量は約5億1400万m3で,これは国産天然ガス生産量の約1/4を占めている。そのうち千葉が約83%,新潟が約11%,宮崎が約6%である。同様に付随水によるヨウ素の生産量は6800tで,うち千葉が約88%,新潟が約10%,宮崎が約2%である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の水溶性天然ガスの言及

【天然ガス】より

…このうち遊離型ガス鉱床を形成するものだけを指して〈構造性天然ガス〉と呼ぶ場合もある。(2)水溶性天然ガス 原油または石炭の鉱床を有しない地質系統中で,主として地層水中に溶解状態で存在する。(3)炭田ガス 炭田地帯で炭層または炭層付近の地層から産出する。…

※「水溶性天然ガス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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