改訂新版 世界大百科事典 「水産物貿易」の意味・わかりやすい解説
水産物貿易 (すいさんぶつぼうえき)
世界の漁業総生産量の十数%程度が貿易にあてられている。その比率に大きな変化はないが,水産物貿易の内容は近年大きく変わってきている。世界を発展途上国と先進国の二つに分けると,漁業生産量では先進国がその比率を高めているものの,ほぼ半々である。需要サイドからみると,発展途上国は需要の9割が食糧用だが,先進国では食糧用は6割で残りの4割が飼料用である。先進国では高級魚は直接消費し,低級魚は家畜に食べさせ,肉にかえて人間が消費するのである。こうした先進国の選択的需要は国内産のみでは満たせず,その差を輸入でうめることになる。輸出入量をみると,輸入で先進国が8割前後を占めるのは当然だが,輸出ですら先進国が7~8割と発展途上国を圧倒している。これは発展途上国側に先進国の選択的需要にあった輸出商品が少なく,かつ適応する力が弱いためであり,一方,先進国では互いに異なる食習慣にあわせて輸出しあっているためだとみてよい。先進国の水産物の選択的消費は,水産物貿易をして先進国間貿易型にさせているのである。
そうした傾向を最も強くもつのが,いまや世界最大の水産物輸入国となった日本である。世界の水産物輸入額の32%を占める日本は(第2位はアメリカ,1993),1995年の輸入量が史上最高の358万t,輸入金額は1兆7200億円に達する。輸入水産物は国内市場,とくに生食市場で重要な品目の一つになっている。日本は依然として世界有数の漁業生産国であるが,量でみても輸入量は日本の漁業界が漁獲する量の約4割を占めるに至った。ほぼつねに生産量で世界の第一人者であった日本は,水産物輸出国としても大きな位置を占めていた。1970年当時でも日本のシェアは輸出額で世界の11%を占め,輸入額で9%であった。それが81年では輸出額で6%,輸入額で23%と,巨大な水産物輸入大国に変身した。輸入額が輸出額を超えたのは高度成長時の1971年である。所得増加を背景にした水産物需要の増加は,日本での漁獲高が少ないエビ,カニ,魚卵,マグロ等にも向かいはじめ最大の水産物輸入国であったアメリカを78年に追いぬいた。輸入品目としては,冷凍エビをトップ(輸入額の20%強)に近年伸びてきたマグロ(10%),サケ・マス(6%),イカ・タコ(6%)などとなっている(いずれも1995)。エビ,魚卵,タコ,カニ等は国産ものよりも輸入ものに依存する割合が高く,エビとマグロでは日本はアメリカとの2ヵ国で世界貿易の大半を占める。自国での漁獲が少ない魚種で需要の強いものを,海外から抽出して輸入するタイプの国として,日本は代表的である。エビは発展途上国から主として開発輸入で,マグロは韓国・台湾等のマグロ船に対するひもつき融資で輸入し,サケ・マスや魚卵はアメリカ,カナダ等の先進国からの買付輸入で確保している。選択的消費による特定水産物の抽出的輸入は,ときに特定品目の〈集中豪雨〉的輸入となって国内の漁業界と摩擦をおこし,他方,輸出国での日本のバイヤーの買付競争は,たとえば現地で無価値物だったかずのこを〈金の卵〉に変え,産地での高価格をひきおこしている。
→水産業
執筆者:堀口 健治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報