翻訳|hydroponics
植物が正常に生育するために必要な元素を含む水を与え,土壌を用いないで植物を栽培する方法。無土壌栽培soilless culture,養液栽培solution culture,ハイドロポニックスともいう。クロッカスやヒアシンスなど球根植物では,球根自体に養分があるので水だけで栽培でき,この場合は水栽培という。水耕には,根を直接水溶液中に浸漬(しんし)する方式(狭義の水耕water culture)と砂,礫(れき),バーミキュライト,おがくずなどの化学的に不活性な資材に根を張らせる方式(砂耕,礫耕など)がある。生育に必要な元素を含む水溶液(培養液という)を与えると,砂に植えた植物が正常に生育することが確かめられたのは1851年のことで,60年には培養液だけで植物を栽培することに成功した。これが水耕のはじまりで,その後,植物栄養の研究に広く利用されてきた。その結果,今日では植物が正常に生育するためには,窒素,リン,カリウム,カルシウム,マグネシウム,硫黄のほかに,微量ではあるが鉄,塩素,マンガン,ホウ素,亜鉛,銅,モリブデンの7元素も必要であることが明らかになっている。
第2次大戦がはじまると,米軍はアセンション島や硫黄島などの岩だらけの孤島で水耕栽培を行い,駐留兵たちに新鮮な野菜を供給したが,これが水耕による野菜の大規模栽培のはじまりである。日本でも,1946年に米軍によって調布市と大津市に大規模な水耕農場が作られた。
水耕は水さえあれば,農耕不能な土地でも可能なので,アブ・ダビーなど中東の乾燥地帯では,現在,海岸地帯にハウスを作り,海水の淡水化装置と組み合わせた水耕装置を設置して,野菜の営利栽培を行っている。また,土壌栽培では連作すると,土壌伝染性の病害が多発し,土壌の物理性も悪化して,作物の生育が不良となるが,水耕栽培では装置を簡単に消毒するだけで連作が可能である。そこで,日本や欧米諸国では,ハウスでの連作障害を回避する手段として水耕栽培を行うことが多くなってきており,装置も市販されている。
根は呼吸を行って酸素を消費するので,培養液中に直接根を浸漬する方式では,栽培槽とタンクとの間で培養液を循環させ,途中に段差を設けて滝を作り,培養液中に酸素を溶けこませている。これに対して,礫耕などでは1日に数回培養液を流すだけなので,礫などの間に空気が存在することが多く,根が酸素不足になることはほとんどない。
砂耕などでは培養液をかけ流しにすることが多いが,礫耕では栽培槽の底から排出される液をタンクに集めて繰り返し利用するのが普通である。培養液を繰り返し利用する場合や培養液に直接根を浸漬する場合には,蒸発散による水の減少分と作物によって吸収された養分をときどき補給する必要がある。また,培養液のpHは5.5~6.5の範囲にあることが望ましいので,週1回程度pHを測定し,硫酸か水酸化ナトリウム溶液で調整する。
培養液中に直接根を浸漬する方式では,十字の切れ込みを入れた発泡ポリエチレンで栽培槽にふたをし,この切れ込みにはさんで作物を支える。また発泡スチロール板のふたに穴をあけ,ここに礫を詰めた網を入れ,礫によって作物を支えることもある。
水耕施設は1作が終わったら,ホルマリンや次亜塩素酸カルシウムなどで消毒するが,砂耕や礫耕などでは砂や礫などに残った根を完全に除去するか,より強力な薬剤(クロルピクリン,臭化メチル)や蒸気によって消毒しないと,病害の発生することがある。残根処理が簡単なことから,近年では培養液中に直接根を浸漬する方式が増えている。
執筆者:杉山 信男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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