沢庵漬(読み)たくあんづけ

精選版 日本国語大辞典 「沢庵漬」の意味・読み・例文・類語

たくあん‐づけ【沢庵漬】

  1. 〘 名詞 〙 漬物の一つ。宮重大根やその系統の練馬大根などを、一、二週間天日に干して水分をとり、たるに並べて糠(ぬか)と塩をふりかけ、押しぶたに押し石をのせて漬けたもの。沢庵。《 季語・冬 》 〔書言字考節用集(1717)〕
    1. [初出の実例]「大悲の御手、たくわんづけの大根の御手のよふ也」(出典:黄表紙・大悲千祿本(1785))

沢庵漬の語誌

( 1 )大根を漬けたものは古くからあり、香物(こうのもの)の代表的なものであった。「本朝食鑑‐二」には「香物 〈略〉有百本漬、〈略〉或称沢庵漬」とあり、沢庵漬を百本漬の異称とし、沢庵和尚の在住した大徳寺から広まったところからの名称であるとしている。「料理塩梅集」(一六六八)の「大根百本漬」と「料理網目調味抄‐三」(一七三〇)の「沢庵漬」の製法は麹・塩・ぬかの比率まで同じで、百本漬と沢庵漬とが同じものを指すことは確かである。
( 2 )沢庵漬と呼ばれるようになった理由については、当時既に議論の対象となっていたほどで、判然としない。よく知られる沢庵和尚創製説も、「物類称呼‐四」に「今按に 武州品川東海寺開山沢庵禅師制し初給ふ 依て沢庵漬と称すといひつたふ 貯漬(たくはへづけ)といふ説有 是をとらず 又彼寺にて沢庵漬と唱へず 百本漬と呼と也」とあるのを見ると疑わしい。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沢庵漬」の意味・わかりやすい解説

沢庵漬け
たくあんづけ

乾燥した大根を米糠(ぬか)と塩を混ぜた床に漬けたもの。日本の代表的漬物で、長期間保存がきく。沢庵漬けの起源については諸説があるが、沢庵宗彭(そうほう)(1573―1645)との関係説が有力である。沢庵和尚(おしょう)は但馬(たじま)(兵庫県)出石(いずし)の宗鏡寺(すきょうじ)の門に入り、のちに京都大徳寺の僧から江戸品川の東海寺に迎えられた高僧であるが、宗鏡寺時代に考案されたものと伝えられる。野菜類を糠と塩で漬ける方法はそれよりずっと以前から行われていたが、沢庵和尚が創意工夫を加えて、今日の沢庵漬けの基礎をつくり普及させたためにその名がつけられたものであろう。

 沢庵漬けには、美濃早生(みのわせ)、練馬(ねりま)、宮重(みやしげ)などの系統の品種がよいとされている。乾燥した大根を用いるが、保存期間により、乾燥の日数が違う。当座漬けでは5日~1週間日に当てて干すが、半年以上保存する場合は折り曲げて輪になるくらいまで干す。干し上がった大根は平らな板の上で転がしながらもんで柔らかくして漬け込む。糠は塩とあわせたものを使い、塩の量も保存期間により異なる。長く貯蔵するものほど塩の量を多くし、糠は少なくする。漬け物容器に、塩とあわせた糠をふりかけながら、干し大根をきっちりと並べる。できたすきまは小形の大根や干した大根葉で埋める。すきまができるとそこに漬け水がたまり、変質したり早く酸味が出る。いちばん上には塩糠を多めにふり、干した大根の葉をかぶせ、蓋(ふた)をして重石(おもし)をする。沢庵漬けは、糠の成分が糠の中に含まれている酵素によって分解されて甘味を生じ、乳酸発酵によって一部の糖が酸に変わり、これらが大根に浸透して塩味とともによい風味を出す。市販品には、乾燥大根は用いず、生のまま食塩水につけて脱水し、これに、糠、食塩、うま味調味料、着色料、保存料などを加えたものをふりかけて数日漬けたものも多く出回っている。

 沢庵はその土地自慢のものもたくさんある。概してよいダイコンのとれる地方、ダイコンを干すのに都合のよい潮風の当たる所に多く産し、静岡県の七尾沢庵、三島(みしま)沢庵、愛知県の渥美(あつみ)沢庵、三重県の伊勢(いせ)沢庵、和歌山県の紀ノ川漬け、山口県の山口沢庵などがよく知られている。

河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「沢庵漬」の意味・わかりやすい解説

沢庵漬 (たくあんづけ)

干しダイコンをぬか漬にしたもので,略して〈沢庵〉ともいう。語源については,禅僧沢庵の創製になるとか,〈貯え漬(たくわえづけ)〉のなまりであるとかいう説がある。《本朝食鑑》(1697)は〈百本漬〉というものの別称であるとし,それが沢庵の在住した京都大徳寺から一般に広まって沢庵漬と呼ばれるようになったとしている。その百本漬は干しダイコンをぬか,こうじ,塩で漬け,重石をのせるもので,《料理網目調味抄》(1730)に見える沢庵漬もこうじを用いるものになっているが,《四季漬物塩嘉言(しきつけものしおかげん)》(1836)ではこうじを使わず,ぬかと塩だけで漬けこむものになっている。すなわち,日に干して小じわのよった程度のダイコンを,大小によって差はあるが,50~100本程度用い,合計1斗のぬかと塩で4斗樽(容量約72l)に漬けこむとする。ぬかと塩との割合は7対3が基準で,夏を越させる場合は5対5まで塩をふやすともしている。きわめて広く普及した漬物で,《守貞漫稿》は京坂ではどこでも自家で漬けるが,江戸の市民は練馬の農民に頼んで1年分のものを漬けてもらい,必要分だけ随時とりよせるようにしている,それは市中に火事が多いのと空地の少ないことによるものだ,といっている。
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百科事典マイペディア 「沢庵漬」の意味・わかりやすい解説

沢庵漬【たくあんづけ】

糠(ぬか)と塩によるダイコンの漬物。たくわえ漬の訛(なまり)とも,また禅僧沢庵の創始にちなむともいう。宮重(みやしげ),練馬などのダイコンを干して後,貯蔵期間の差により塩を加減し,糠漬したもの。

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和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典 「沢庵漬」の解説

たくあんづけ【沢庵漬け】

生干しした大根をぬかや塩などで漬け込んだ漬物。◇江戸時代初期の臨済宗の僧、沢庵(たくあん)が考案したからとも、「たくわえ漬け」が変化したものともいわれる。「たくあん」「たくわん」などともいう。

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