改訂新版 世界大百科事典 「法の継受」の意味・わかりやすい解説
法の継受 (ほうのけいじゅ)
reception of foreign law
法の継受には広狭2義があり,広義においては,ある法共同体(民族,国家,都市など)の法規範や法典を,他の法共同体が採用することを意味する。この意味の継受は,同一の法系内部であれ相異なる法系間においてであれ,個々の法制度の模倣や借用から法秩序ないし法文化の全体の継受までも包含するので,しばしば全体的(包括的)継受と部分的継受,立法的・司法的または学説的継受,自由意思による継受と強制による継受などというように区別して研究されてきた。それは,あまりにも多種多様な法移動の現象を,この区別によって対象を限定し,その継受の性格を明らかにしようとする試みでもある。たとえば強制による法の賦課は継受でなく,自由意思に基づくもののみを継受とみなす考え方があり,その立場から,日本では,継受の語よりも〈摂取〉の語を用いるべきだとの提案も有力である。しかし,たとえばベルギー,オランダ,ルクセンブルクは,ナポレオンの軍事的圧力の下にフランスの法典を強制されたが,彼の失脚後もなおその法典はそのまま,あるいは若干の修正を加えて維持されていることからみても,この種の区別はあまり実益がない。また全体的継受と部分的継受を区別しても,継受現象に横たわる基本的問題は共通であり,他方,部分的継受においては,継受国の法秩序にあまり影響しない個別的法制度の借用にまで研究対象を拡大するきらいがある。
ここにおいて狭義の継受,すなわちおもに相異なる法系に属する諸国間における法の移動が問題にされている。これは,通常,ドイツにおける〈ローマ法の継受〉,日本やトルコにおける西洋法の継受あるいは東欧諸国におけるソビエト法の継受等が法の継受の典型的事例として挙げられていることにも対応している。いずれも異質的な社会に外国法が包括的に受容された場合であり,国家社会の近代化や行政的・司法的制度の合理化を目標として遂行されたものである。被継受法はおもに法典法であるが,インドのようにコモン・ローを継受した例も少なくない。また一国の法を全体として継受するよりも数国から選択的に継受する例が多い(日本の民法はドイツ,フランスから,刑事訴訟法はアメリカから継受)。それだけにそれらが立法,司法,学説の分野でいかに受容され,どの程度まで継受国に定着してその質的転換を惹起したかという問題をめぐって,法の継受は,法史学,法社会学,比較法学の最重要課題の一つとなっている。
執筆者:大木 雅夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報