比較法学(読み)ひかくほうがく(英語表記)comparative law
droit comparé[フランス]
Rechtsvergleichung[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「比較法学」の意味・読み・例文・類語

ひかく‐ほうがく ‥ハフガク【比較法学】

〘名〙 二つ以上の社会・国家における法律制度を互いに比較研究する学問

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デジタル大辞泉 「比較法学」の意味・読み・例文・類語

ひかく‐ほうがく〔‐ハフガク〕【比較法学】

二つ以上の国家・社会における法制度を比較研究する法学の一分野。

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改訂新版 世界大百科事典 「比較法学」の意味・わかりやすい解説

比較法学 (ひかくほうがく)
comparative law
droit comparé[フランス]
Rechtsvergleichung[ドイツ]

最も一般的には,比較法は複数の法秩序およびそれらを構成する法制度を比較し,法の認識や改善に資する法学の一部門といえる。その核心は〈比較し関連づける〉ことにあり,これは微視的比較micro-comparisonと巨視的比較macro-comparisonに分けられる。前者は個々の法規定や法制度の比較であり,同一の法系の内部で行われる場合に成果をあげやすく,現在最も広く行われている。しかしここで認識されうるものは,法秩序を構成する基礎分子(法の規範原則概念,制度)のみである。これに対して後者は,複数の法秩序を全体として比較し,それぞれの精神,構造,存在様式,形態的特殊性を明らかにしようとする。前者の比較法は,法のいかなる部門にも適用されうる〈比較方法〉に重点をおくから,比較法とは法の比較方法であるとの見解に導く。これに対し後者をもって狭義の〈比較法学〉とする有力な立場があり,これはすでにフランスではダビドRené Davidが,ドイツではツバイゲルトKonrad Zweigert(1911- )とケッツHein Kötzが試みてきた〈世界の大法系(法圏)論〉とほぼ一致している。

 比較法が必然的にこの二つの部面を有するのは,歴史的な背景に由来する。自己の適正な法体系をつくるのに外部から示唆を得ようとする考えは,紀元前5世紀の十二表法以来今日まで続いており,とくに普通法の成立や法典編纂による国民的な法の完成の後には互いに他国の立法的経験を学ぼうとする〈比較立法comparative legislation〉の観念が現れた。次いで進化論の影響下に〈民族学的法学〉が未開社会の法を探究し,第1次大戦後に英米法が,第2次大戦後には社会主義法やアジア・アフリカ諸国の法が視野に入るとともに,法は制定法に限らず,文化の部分現象とみられ,〈法系〉の観念も明確化されて〈比較法comparative law〉の語が一般化した。ここでは法制度の異同のみならず,法系の独自性も探究されざるをえなかったのである。

 これらの作業を通じて比較法は,多様な機能を果たしている。法的認識の深化,法の発展傾向の確認,諸国法の共通基礎の確認と理想型の定立のような理論的機能があり,さらに立法に資料を提供し,あるいは法解釈を補助するような実務的効用もある。

 こうして現在,日本も含む諸国の大学では,しだいに比較法の講座を設け,研究所や学会の組織化も進展している。国際組織としては国際比較法アカデミーInternational Academy of Comparative Lawが1924年に創設されて4年ごとに国際学会を開き,50年創設の国際法律学協会International Association of Legal Scienceは,《国際比較法百科事典International Encyclopedia of Comparative Law》(16巻)の刊行を助成し,60年創設の国際比較法協会International Association of Comparative Lawは比較法教育国際大学International Faculty for the Teaching of Comparative Lawを開設している。比較法学は新しい学問分野であり,国際的にも国内的にも今後いっそうの発展が期待される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「比較法学」の意味・わかりやすい解説

比較法学
ひかくほうがく
comparative law

世界の国々の法体系を比較することによって、それぞれの国の法制度、法の機能や法意識の特質を明らかにしようとする、法律学の研究分野をいう。もっとも大ざっぱな分類として、世界の法を、英米法系(イギリス、アメリカなど)、大陸法系(ドイツ、フランスなど)、社会主義法系(旧ソ連、中国など)、アジア法系(イスラム諸国、インドなど)の四つの「法系」に分けて整理するのが普通である。自国の実定法の解釈・運用や新たに必要な立法の検討などのような実用的関心から研究される場合と、より客観的に、各国の法の原理的特徴や基本発想を比較によって相対化し鮮明に認識することを志向する場合とがある。いずれの場合も、今日では現行法の比較を念頭に置くことが多く、歴史的比較は法史学の範疇(はんちゅう)に入る。

 日本では、明治維新による近代国家成立以来、ヨーロッパ法(とくにドイツ法)を継受して資本主義的法制度を整備してきており、また戦後はとくにアメリカの法制度も盛んに導入されたという事情のため、英米法、ドイツ法、フランス法などが比較法学の主流をなしてきた。各実定法分野の法学研究者もこのいずれかの比較法研究を手がけていることが多い。しかし近年は、社会主義法系の研究も盛んになるなど、多様化してきている。

[名和田是彦]

『五十嵐清著『比較法入門』(1968・日本評論社)』『ツヴァイゲルト、ケッツ著、大木雅夫訳『比較法概論』上下(1974・東京大学出版会)』『田中英夫・野田良之・村上淳一・藤田勇・浅井敦著『外国法の調べ方』(1974・東京大学出版会)』

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