液体中の泡の生成によって荷電粒子の飛跡を観測する装置。バブルチェンバーbubble chamberの訳語。1952年グレーザーが有機液体を用いた泡箱の実験に成功した。密閉容器中に液体を封入し、適当な温度と圧力にしておく。これを沸騰しない程度に機械的に減圧すると、液体は過熱状態となる。この液体中を荷電粒子が通ると、粒子は液体分子と衝突を繰り返して運動エネルギーを失うとともに、粒子の進路に沿って液体を局所的に加熱する。その結果、粒子の進路上に泡の列が発生する。これを強い照明で照らし出し荷電粒子の飛跡を観測する。液体は気体よりはるかに高密度であるから、高エネルギー粒子の衝突実験の標的として適しており、泡の位置精度も数十マイクロメートルと良好なので、泡箱は素粒子研究に重要な役割を果たしてきた。液体水素泡箱はもっとも基本的標的である陽子の集合体なのでとくに重要で、直径数十センチメートルから2メートルのものまで世界各地でつくられた。通常、強い磁場をかけて荷電粒子の軌道を曲げ、その飛跡の曲率から粒子運動量を求め、泡の発生密度分布から粒子速度を測定する。実験によっては10万枚単位の写真撮影を要するので、解析にかなりの費用と日数を必要とする。しかし1980年代からは、泡箱にかわってより効率的な電気信号を利用した多線式比例計数箱や液体アルゴン封入の電離箱に置き換えられている。
[池上栄胤]
液体中に生ずる泡によって荷電粒子の飛跡を視覚的に検出する装置。1952年アメリカのグレーザーDonald Arthur Glaserにより考案された。ある種の液体は加圧後,急に減圧すると過熱状態になり不安定になる。このときに荷電粒子が入射すると,粒子の電離エネルギーにより液体が局所的に沸騰し,粒子の通ったところに沿って泡が生成される。この飛跡を写真などに記録して解析するのが泡箱である。液体としては液体水素,フレオンなどが使われ,液体の原子核や原子核内の陽子,中性子が入射粒子の反応標的となる。オメガマイナス(Ω⁻)粒子など多くの粒子の発見や,その特性ならびに反応機構の解明,また弱い相互作用と電磁相互作用の統合の理論の確立に寄与するなど高エネルギー物理学の発展は泡箱に負うところが大きい。
執筆者:山本 祐靖
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