気体の中を荷電粒子またはX線、γ(ガンマ)線などの短波長の電磁波が通過すると、これらの放射線との電磁的相互作用によって、気体分子が電離される。気体が適当な過飽和度の水蒸気で満たされていると、過飽和の水蒸気は電離された気体分子を核にして液化し、放射線の通過した道筋(飛跡)に沿って霧ができる。このような原理に基づいて放射線の飛跡を観測する装置が霧箱である。C・T・R・ウィルソンは飽和蒸気の満たされた容器を断熱膨張によって急冷し、過飽和の状態を生じさせる型の霧箱を考案した。この型のものを「ウィルソンの霧箱」とよんでいる。これに対し、容器の上部をヒーターで熱し、下部をドライアイスで冷やして容器内の気体に温度勾配(こうばい)をつけ、容器の上部に水を入れて飽和蒸気圧の状態にすると、高温で飽和状態の水蒸気は、低温の部分に拡散して過飽和状態となり、適当な高さのところに、放射線の飛跡に沿って霧を生じうる部分ができる。この型のものを拡散型霧箱とよんでいる。ウィルソンの霧箱では、断熱膨張ののち、熱伝導などによって急速に状態が崩れ、放射線の飛跡に霧が生じうる時間(感応時間)は10分の1秒程度であるが、拡散型では連続観測が可能である。霧箱は原子核反応、とくに宇宙線の研究で重要な役割を果たしたが、新しい各種の装置の開発に伴い、現在では放射線測定装置としてはほとんど利用されていない。
[西村奎吾]
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気体中に生ずる霧によって荷電粒子の飛跡を検出する装置。1911年前後にC.T.R.ウィルソンにより実用化されたことからウィルソン霧箱とも呼ばれる。十分に飽和した気体を急に膨張させると過飽和状態になるが,このときに荷電粒子が入射して気体の分子が電離されるとイオンを核として気体が凝縮して粒子の飛跡に沿って水滴(霧)が生成される。この現象を利用して粒子の検出を行うのが霧箱で,気体としては主としてアルゴンと気体状態の水とプロピルアルコールを混合したものが使われる。コンプトン散乱の立証,陽電子の発見も霧箱でなされ,また原子核衝突,宇宙線の研究などに用いられたが,現在では泡箱や放電箱が主流となっている。
執筆者:山本 祐靖
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気体中に霧をつくっておき,荷電粒子を通過させてその飛跡(トラック)を観測する装置.イギリスの物理学者C.T.R. Wilson(1927年,ノーベル物理学賞受賞)が発明したので,ウィルソンの霧箱ともいう.現在,荷電粒子の飛跡を観測する装置として泡箱がある.これは,D.A. Glaser(1960年,ノーベル物理学賞受賞)が発明したもので,ある種の液体,たとえば液体水素を沸騰寸前の状態にしておき,荷電粒子を通過させ,生じる泡で飛跡を観測する.
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