放射線が物質中を通過するときの電離作用で発生する電子とイオンを集めることにより、放射線の強度や線量またエネルギーを測定する装置。電離物質としてアルゴンガスや有機ガスが用いられるが、中性子などには三フッ化ボロンを使用する。高分解能でエネルギーを測定する半導体検出器も電離物質として半導体を用いた電離箱の一種である。向かい合わせた2枚の平板または同心円筒の電極の間に直流電圧をかけて電離イオンや電子を電極に集める。放射線が電離で失うエネルギーと生成イオンの電荷総量とは一般に比例関係にあるので、電極から取り出された電気的信号によって放射線の線量やエネルギーが測定される。測定法としては、電流を測定して単位時間当りの検出放射線量を求める古くからの方法と、 のように陽極を抵抗Rを通して接地し陽極の電圧変化ΔVを測定する方法とがある。
電圧変化の測定では、電位計によって一定時間中の電離の量を計る線量計方式と、電離箱にパルス増幅器と計数器を接続して放射線を一個ごとにパルス的に計測する場合とがある。パルス計測では計数だけではなく、パルスの大きさによって放射線のエネルギー分布も測定される。平板電極型の電離箱では、パルスの大きさが電離場所によって影響されるのを防ぐために、グリッド電極を二つの電極の間に挿入するものもある。
放射線監視器や放射線発生機器周辺の粒子線強度測定に使用され、とくにローリッツェン検電器を内蔵したものは放射線ポケット線量計として一般に普及している。素粒子の実験では1980年前後から液体アルゴン封入の電離箱が、粒子線軌跡やエネルギー測定に利用されている。
[池上栄胤]
1920年代に開発された荷電粒子検出装置で,概略的には正負の電極間にアルゴンなどのガスの入った箱である。電極間に電圧がかかっているときに荷電粒子がガス中を通ると,ガス分子が電離され,発生した電子はすみやかに正の電極へ移動するので,荷電粒子が電離箱へ入ったことが正電極の電位の変化により検出できる。また荷電粒子が継続的に電離箱に入射されれば正電極の平均電流より粒子の入射量が測定できる。電極間の電圧を増加させると電離した際に発生した電子がガスと衝突して二次電子が発生し,その数は荷電粒子がガス中で失ったエネルギーに比例するので,粒子の計数とエネルギーの推測が可能になる。このような電離箱は比例計数管と呼ばれる。さらに電圧を上げると初期のエネルギー損失に関係なく大量の二次電子が発生するようになるが,このような電離箱はガイガー=ミュラー計数管と呼ばれ,電離作用の弱いβ線などの検出に適している。
執筆者:山本 祐靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
直接電離放射線は,気体中に多数の二次電子・正イオン対を生成する.これら正イオン・電子(ないし負イオン)を正負電極間にかけた電圧により電極に集めるとき,外部回路に流れる電流ないし誘起電圧を利用し,放射線の検出・測定を行う装置.間接電離放射線の場合,電離箱中の気体や壁との相互作用によりつくられた二次電子や重荷電粒子が気体中に生成する電離を利用する.電離箱は利用する信号の種類によって直流電離箱とパルス電離箱の2種類に分類される.電離箱は原理・構造が簡単なため,放射線量測定,α粒子・核分裂片のエネルギー測定,原子炉制御用中性子束計,放射線防護用個人モニターなどに広く用いられている.[別用語参照]電離放射線
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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