改訂新版 世界大百科事典 「浴用剤」の意味・わかりやすい解説
浴用剤 (よくようざい)
入浴の際に用いる医薬部外品,医薬品などをいう。入浴剤ともいう。入浴によって血液の循環を良くし,新陳代謝機能を高め,皮膚を清潔にするという効果をいっそう高めるだけでなく,保湿,保温,ストレス解消などのほか皮膚疾患や肩こり,腰痛,神経痛,リウマチなどに対する有効性を目的とする。一般に浴用剤は温泉成分の効能を期待するものと薬用植物成分の効能を期待するものとに大別される。前者は重炭酸ナトリウム(重曹),硫酸ナトリウム(ボウ(芒)硝),食塩,ミョウバンなどの無機塩類を成分とし,後者はトウキ(当帰),センキュウ(川芎),ハマボウフウ(浜防風),ハッカの葉,カミツレなどを成分とする。中国では古来3月3日の上巳(じようし)(曲水の宴)を不祥日とし,水辺の沢蘭を摘んで沐浴し,厄除けと病気平癒を祈願した。また5月5日の端午を悪日とし蘭草やヨモギ(艾)の湯に入り邪気を払った。日本では957年(天徳1)和気時雨(ときふる)が典薬頭(てんやくのかみ)になったとき,村上天皇に健康法として5月5日に菖蒲湯(しようぶゆ)に入ることをすすめたという。そのほか,年中行事と結びつけた民間療法として土用の入りに桃の葉湯に入るとあせもを治すとか,冬至(とうじ)に柚子湯(ゆずゆ)に入ると,ひび,あかぎれを治し,一年中風邪を引かないという。また江戸では伊豆や箱根の温泉を四斗樽に入れて運び,わかし直したり,薬草の煎液を加えたりした〈くすり湯〉という湯屋が銭湯とは別にあった。明治中期には生薬(しようやく)を布袋に入れた浴用実母散や浴用中将湯が発売された。昭和に入ると重曹とボウ硝を主剤としたものや,硫黄,生石灰,カゼインによる多硫化カルシウムを主剤とするもの,天然の湯の華などが売り出された。現在では重曹とコハク酸を主剤としてできる。水に溶解する炭酸ガスを有効成分とするものなどのほか,生薬エキスを配合したものなどがあり,浴室の普及率が高まるにつれ,種類も多くなっている。
古代エジプトやローマではクレオパトラが毎日バラの香水ぶろに入ったとか,皇帝ネロの妻ポッパエアがロバの乳ぶろに入ったという話は伝えられているが,日本のような庶民の入浴習慣はなかった。温泉も各地にあったしフィトテラピー(植物療法)もあったが,溶剤にまでは発達しなかった。水質が悪いので炭酸ナトリウムやホウ(硼)砂などを水質軟化剤としたバスソルトは,19世紀の終りころには紹介されている。そのほか,オリーブ油などを入れたバスオイル,界面活性剤をつかって泡を立てるバブルバスなどがある。
執筆者:高橋 雅夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報